淋しいとただ言い訳を
12

 アパートの玄関で立ち止まった比奈ちゃんが、鞄をごそごそと探る。出てきたのは、きれいにラッピングされた箱だった。

「バレンタインデーなので! 比奈から先輩に感謝の気持ちです!」
「あ、ありがとう……」

 手作りだ。嬉しい。
 照れたりする様子はなく、比奈ちゃんはにこにこ笑ってそれじゃあ、と踵を返してエントランスに入ろうとした。その手をぐっと握って立ち止まらせる。

「なんですか?」
「……」

 不思議そうに見上げてくる比奈ちゃんを、思わず抱きしめた。突然のことに慌てて俺から離れようとするのをさらにきつく抱きしめる。
 好きなのに伝わらない。
 それが悔しくて、チョコを渡すのにも友達にあげるような対応で、いらっとして、行き場のない熱が比奈ちゃんを拘束する腕にまで流れた。

「成、さ、せ、ぱい……苦し……」
「どうしたら比奈ちゃんは俺のものになるの?」
「……な、何? ……せん、ぱい」
「いつになったら『先輩』のこと忘れるの?」
「ふぇ? 痛……せんぱ、いたい、よ……」
「好きなんだ」

 好きなんだ、大好きなんだ。
 腕をほどき、軽く咳き込む比奈ちゃんの顎を少し強く掴んで上向かせる。涙目で俺を見るその視線に耐え切れず、両頬を包んでキスをした。

「ん!」

 驚いたように声を出した比奈ちゃんに、もう一度強く唇を重ねる。角度を変えて何度も、舌で唇をなぞったりした。
 と、頬を包んでいた手に、生ぬるい水が伝った。口を離すと、比奈ちゃんが泣いていた。

「比奈ちゃん?」
「……ごめ、っなさい……」

 どん、と胸を押されて、比奈ちゃんは泣きながらオートロックをくぐって廊下の向こうへ消えた。
 ごめんなさいは、誰に対してだったのだろう。
 甘い味がした彼女の唇の感触を思い出して、俺はぎり、と歯軋りをした。