淋しいとただ言い訳を
11

 バレンタインデー。毎年数人から告白と一緒にチョコをもらうが、今年はどうしても欲しい相手がいる。比奈ちゃんだ。
 見かけによらず料理が得意だという彼女の手作りチョコが欲しい。今日、十四日は、早めに比奈ちゃんを誘って予約した。他の男から誘いがあっても断るだろうとは思うが、念のため。

「先輩!」

 改札口の近くの柱にもたれて待っていると、比奈ちゃんが白い息を吐きながら小走りで現れた。白いポンチョにピンク色のスカート、それと茶色のウエスタンブーツを履いた比奈ちゃんは、雪の精のようだった。

「行こうか」
「はい!」

 手をつないで、駅を出る。比奈ちゃんはみなとみらいが好きで、デートの大半はそこだった。今日も例に漏れず、足はランドマークタワーに向かう。
 何かいいことでもあったのか、比奈ちゃんはご機嫌そうに鼻歌をうたっている。

「何かいいことあったの?」
「う?」
「ご機嫌そうだからさ」
「比奈はいつでもご機嫌ですよー」
「そう?」
「そう!」

 にこっと笑った比奈ちゃんが、一瞬さみしそうな顔をして、またすぐ笑顔になった。最近、彼女はさみしそうに笑うことが多い。どうして、なんて野暮な質問はしない。俺に有利なことじゃないと分かっているから。きっと『先輩』のことでなんだろう。
 ぽてぽてと俺のあとを付いてくる比奈ちゃんに、まだ見ぬ元彼に、軽く嫉妬の念がわき起こる。サークルの後輩によれば、この二年間誰とも付き合っていないらしく、そうすると元彼とは高校時代に付き合っていたのだろう。彼女が高校を卒業してもうすぐ二年が経つ。それなのにまだ、彼女は元彼を想っている。
 いつになれば元彼のことを忘れて俺自身を見てくれるんだろうか。やはり、ちょっと実力行使、既成事実でもつくりあげたほうが、彼女の印象も変わるだろうか。俺は元彼ではないと。

「先輩?」
「あ、ごめん、何?」
「もうスタバ着いたですよ」
「うん」

 ぼうっとしていた。スタバに入って比奈ちゃんと俺の分の注文をして会計する。最初のうちは、比奈ちゃんも奢られることに抵抗があったようだが、今ではすっかり慣れてしまっている。席を確保してくる、と言って奥に消えた。俺はランプの下で待ちながら、たぶん比奈ちゃんってめちゃくちゃ甘やかされて育ったんだろうなあ、なんて考えていた。
 帰り道、比奈ちゃんを家まで送り届ける。
 まだチョコのチの字も出てきていないが、まさか比奈ちゃんは今日が何の日か忘れているのだろうか。もしくは俺にやるチョコなんざねーよというオチだろうか。