淋しいとただ言い訳を
10

「クリスマス?」
「うん」
「えっと、予定はないです」
「じゃあ俺と過ごさない?」
「はひ?」

 いつものように友達感覚で呼び出して、彼女がキャラメルマキアートをちびちび飲んでいるのを眺める。
 考え込むように唸った比奈ちゃんが、顔を上げる。

「何するですか?」
「何って普通に……なんでもいいよ、カラオケとか、ラウンドワンでもいいよ」
「比奈カラオケがいい!」
「じゃあカラオケにしようか」

 いつになったら落ちてくれるのか。
 すっかり懐かれたのはいいが、完全に友達としての位置を確立してしまった気がする。
 無邪気に俺と手をつないで歩く。周りには恋人同士に見えているだろう。なのに、現実は友達以上恋人未満といったふうなスタンスだ。
 とりあえずクリスマスを一緒に過ごすことはできそうだ。男が苦手で接触も好まないと言っていたけど、少し物理的距離を縮める必要もあるのかもしれない。キスくらい許されるだろうか。

「お正月は?」
「お正月は、比奈はおうちに帰るですよ」
「ああ、そっか」
「先輩は?」
「俺も帰ろうかな」

 実家は長野にある。毎年夏休みと正月は帰省している。すっかり忘れていた。帰ろうかな、と言ってみても、決まっていたことだったのだ。比奈ちゃんを誘いかけてしまった手前、そう言うしかなかったが。
 ワールドポーターズを出ると、暖房のきいた屋内から急に外に出たことで、寒気が襲う。十二月の風は冷たく俺の頬を撫でて通り過ぎていった。つないだ手をぐっと握られ、見下ろすと、耳と鼻が真っ赤になっていて、ああ寒いんだな、と思う。
 赤レンガ倉庫に向かって歩いている途中、比奈ちゃんがなぜだかさみしそうな顔をしたことには気づかないふりをした。