淋しいとただ言い訳を
08

 九月、学校がはじまった。
 成沢先輩とは相変わらずだ。誘われて、他愛ない話をしながら買い物したり、散歩をしたり。
 先輩と一緒にいると、自分が高校生だった頃を思い出す。尚人先輩の髪の毛がまだ黒かったときのこととか、ふたりでさぼって河原を散歩したこととか。
 成沢先輩といると、時間が飛ぶように過ぎていく。一緒にいて楽しいし、怖くないし、優しいし。あたしが苦手だと言うから、必要以上のスキンシップを図ってこない。
 尚人先輩も、最初はそうだった。あたしが怯えるから、触れてこなかった。だんだん先輩の隣にいるのが心地よくなってきて、当たり前になっていた。でも、違ったんだ。
 当たり前のことなんて何一つない。先輩は遠く離れた場所にいて、あたしは先輩にそっくりな男の人と仲良くしている。こんなことを、二年半前の自分なら想像もしなかった。先輩にそっくりな人がいるなんて思ってもみなかった。
 あたしはこのまま成沢先輩となんとなく一緒にいて、楽しい時間を過ごして、先輩のことを忘れていっちゃうんだろうか。時々そう思うほど、成沢先輩の隣は心地よかった。
 でも、心地よいだけじゃない。痛みもある。
 顔を見るたびに先輩のことを思い出して、胸がぎゅっと苦しくなる。先輩、ごめんなさい。でもあたし、さみしいんだよ。すごくすごくさみしいの。先輩がはやく迎えに来てくれないから、さみしいんだよ。心にぽっかり穴が開いたんだよ。そこに、成沢先輩を押し込めるのは、ずるいことだよね、分かってる。分かってるけど、……途轍もなくさみしいんだ。