淋しいとただ言い訳を
06
「比奈ちゃんはさー、好きな食べ物とかある?」
「比奈は甘いものが大好きですよ」
「ふぅん。それ、甘い?」
「はい!」
それ、と指差したのは、比奈ちゃんが小さな口を駆使して食べているでっかいフラペチーノで、終始笑顔なことから甘くて美味しいんだろうなというのは容易に予想できた。
幸せそうだなあ、と思いながら、飲み終えてしまったコーヒーのカップに刺さったストローをくるくる回す。マイペースにちまちまと生クリームを食べる比奈ちゃんに、若干いらっとする。もっと早く食えよ。
とんとんとテーブルを指で叩いて密かに訴えるが、それには気づかないのか、不思議そうな顔で俺を見た。
「なんですか?」
「……なんでもない。このあとどこ行く?」
「どこ……」
フラペチーノをほったらかして真剣に首をかしげて考えている比奈ちゃんは、そこまでめちゃくちゃ美少女ってわけじゃないのだが、小動物のような愛くるしさがある。大きな目をうろうろさせて考えていた比奈ちゃんが、じゃあ、と口を開いた。
「先輩は、どこ行きたいですか?」
「俺?」
俺は別に……と言いかけたところで、比奈ちゃんがぱっと顔を明るくして、俺の向こうを見て手を振った。
「梨乃!」
「あれ、比奈」
りの、とはルームシェアしている子の名前ではなかったか。振り向くと、立っていたのは背の高い和風美人といかにも肉食系の男だった。
「偶然〜……え?」
梨乃ちゃんが、俺を無遠慮にしげしげと眺めて、比奈に向き直る。
「ほんとに似てるね」
「でしょ?」
そんなに似ているのか。お目にかかりたいくらいだ。
「はじめまして。その節はお世話になりました」
「ああ、いや、別に」
「こんな子ですけど、仲良くしてあげてください」
「梨乃! 比奈、子どもじゃないよ!」
「分かってるよ。でも心配なものは心配なの」
この子は常識がなっているな。さしづめ比奈ちゃんの姉代わりといったところか。
「梨乃、また違う男の子!」
「あーはいはい。あたしの好きにさせてよ、拓人さんだってやってんだからあたしがやったっていいじゃない」
「もーっ!」
ひらひらと手を振り消えていった梨乃ちゃんの手は、肉食系男子の手と絡められている。一見恋人同士に見えるが、違うようだ。
「今の子が、ルームシェアしてる子?」
「はい! すごくきれいでしょ!」
「あ、うん。……飲んじゃいなよ」
「あっ忘れてた!」