淋しいとただ言い訳を
05

 あたしは今、駅前にいる。成沢先輩とのお約束なのだ。
 昨日、家に帰って一番に梨乃に抱きついて、ごめんなさいをした。梨乃も、困ったように眉を下げてあたしの頭を撫でて、こっちこそごめんね、と言った。仲直りだ。ケンカは仲直りするためにあるのだ。
 少しはやく着いてしまったけど、成沢先輩はすでに改札口から少し離れたところに立っていた。

「おはよございます!」
「おはよ。どこ行く?」
「どこ?」
「だって、デートじゃん、これ」
「デ……」

 知らなかった。友達とお茶をするのもデートと呼ぶのか。盲点だった!
 ふ、と自然に成沢先輩があたしの手を取った。ものすごく自然な動作だったそれは、尚人先輩を思い出させて、振りほどくことができなかった。尚人先輩よりも太いごつごつした指。大きな手のひらは一緒だ。

「あのっ、先輩、手……」
「怖い?」
「え?」
「数学科の一年の奴から聞いたんだけど、男嫌いなんだって?」
「あっ、はい……」
「俺は怖い?」
「……ううん」
「なんで?」
「……先輩に、似てるから」
「やっぱり」

 にこっと笑った先輩が、あたしの手を引いて駅の外にいざなう。かんかんと照りつける太陽と、それのせいで温まったアスファルトの地面と、上下の暑さに額から汗がにじみ出る。

「どこ行く?」
「スタバ!」

 尚人先輩なら、あたしがスタバを好きなことを知っているから、何も聞かずに、どこかでお茶したいと言えばスタバに連れてきてくれる。
 成沢先輩と手をつなぎながら、スタバの入っているビルに入る。自動ドアをくぐった瞬間、涼しい風が舞い込んできた。

「スタバは……あそこか」
「わっ」
「あ、ごめん」

 先輩がいきなり歩く速さを増すから、思わず前につんのめった。それを抱きかかえて助けてくれた先輩からは、尚人先輩と同じ香水のかおりがした。でも、尚人先輩とは違うかおりに感じた。先輩の肌は甘いんだ。だから、違うかおりになってしまうんだと思う。少し、切なかった。
 「成沢先輩は尚人先輩じゃないよ」。分かってる。分かってるよ、梨乃。痛いくらい分かってるんだ。でも、似てるんだもん。
 さみしいんだ。先輩がいなくて、すごくさみしくて悲しくて。待つのはつらいんだ。
 先輩に似てるからって成沢先輩を好きになるわけじゃない。だけど、ほんの一瞬でも嘘でもいいから、先輩を感じたいんだよ。それってダメなこと?
 分かってる。……分かってる。