淋しいとただ言い訳を
03

「お茶、ですか?」
『そう。比奈ちゃんと遊びたいなーって思って』
「むー……」

 鍵を返してもらった数日後、成沢先輩から電話がかかってきた。内容は、お茶しにいこうというものだった。
 男の子とふたりきり。少し怖いけど、成沢先輩は優しいから、それに尚人先輩に似てるから、平気かな。そう思って、オーケーの返事をする。明日の二時、駅前で。

「誰からの電話?」
「成沢先輩」
「なんて?」
「お茶しない? て」
「で、頷いたわけ?」
「うん」
「大丈夫なの?」
「うん、たぶん」

 眉根を寄せた梨乃に、笑って見せる。すると梨乃は、ますます険しい表情になった。

「成沢先輩は尚人先輩じゃないよ」
「……? そんなの分かってるよ」
「どうだか……」
「いいじゃん! 比奈が誰と遊んでも梨乃には関係ないじゃん!」
「あたしは比奈が心配だから言ってるの!」
「梨乃だって拓人さんいるのに、しょっちゅうほかの男の子と一緒に遊んでるじゃん!」
「それはあたし個人の問題でしょ!?」
「比奈だって比奈個人の問題だもん!」
「もう……勝手にすれば」
「するもん!」

 鞄を引っ掴んで外に出る。バイトの時間まではまだあるけど、家にいたって気まずいままだ。
 ……初めて、梨乃とあんなケンカした。
 「成沢先輩は尚人先輩じゃないよ」。そんなの、分かってる。ただ似てるから、好感が持てるだけだ。代わりになんかしていない。だけど、梨乃からしたら、そう見えてもおかしくなくて。

「あんなに怒ること、なかったかなぁ……」

 ひとりごちてもその文句は、閑静な住宅街に、反響もせず吸い込まれた。
 帰ったら、梨乃にごめんねって言おう。それで、明日の朝はいつもみたいにご飯一緒に食べるんだ。