ペアリングは靴の中に
07

「比奈ちゃん、俺が送っていこうか?」
「え、でも……」

 何かする気なんじゃあ……と疑いの目を向けると、苦笑した成沢先輩は首を軽く振った。

「俺今彼女いるもん。数合わせなんだよ」
「……」

 彼女がいようがいまいが食う男はいるからなあ、と思いつつ、あたしとしては比奈がどうなろうが知ったこっちゃないというのが本音で、送り狼になろうが比奈が無事朝を迎えることができるのなら、という気持ちで頷いた。

「ええ! 俺が送りたかった!」
「伊田くんは明らかに下心あるからダメ!」
「うっ……」
「比奈ちゃん、立てる?」
「きゃははは、立てなぁい。先輩抱っこー」
「……」

 さっきから、比奈の様子がおかしい。それは酒に酔ったからではなくて、成沢先輩が現れてからずっとだ。
 先輩を見て明らかに動揺したそぶりを見せ、長いトイレ、そして今の目。今、比奈の瞳は、成沢先輩を見ているのに、見ていないような気がする。成沢先輩を通して何か別のものを見ているような。

「じゃあ、おんぶね」
「先輩おんぶー」

 先輩。
 比奈に少しだけ聞いたことがある。元彼の話だ。ひとつ年上の先輩で、高校時代付き合っていたと。いろんな事情が折り重なって彼はイタリアへ渡ったということも。それが別れの原因だと。
 ……先輩、ね。

「比奈ちゃんの家、分かるかな」
「あ、はい」

 比奈の住むアパートの住所を教えると、ありがと、と呟いた成沢先輩が比奈の前にしゃがんだ。

「おんぶー」
「はいはい」

 嫌がるふうもなく比奈をおんぶした成沢先輩は、じゃあ、と告げて静かに居酒屋を出て行った。
 大丈夫だろうか、本当に。合コン終わったら電話してみよう。そう思って、私は視線を入り口からみんなに戻した。