ペアリングは靴の中に
04

「あっ、俺です……よろしく」
「うえ、はい、あの、よろしくです……」

 いきなり話しかけられて思わず肩がびくんと跳ねた。声のしたほうを見ると、さっきあたしをじーっと見ていた男の子が少し赤くなりながら言った。風邪でも引いてるのかな?
 ちらちらと他のメンバーを見ると、男の子のほうがひとり少ないのに気づいた。あれ? 合コンってたしか……。

「きらら、男の子ひとり少ないよ?」
「ああ、遅れてくるって」
「ふーん」

 雨は霧のような小雨になっていた。傘を閉じたままでもじゅうぶん歩ける。駅ビルに入っている居酒屋さんの前で、きららたちが立ち止まる。

「ここ」
「うん」

 合コンか。合コンって何するのかな。みんなでご飯食べてカラオケしてって梨乃は言ってたけど、ほんとうにそれだけなのかな。カラオケは楽しいけど、みんなでご飯って、あたしきららしか知り合いいないのに、どうお喋りすればいいのかな。
 そんなことをぼんやり考えているうちに、席に案内されてあたしは一番奥の席に座り込む。正面に伊田くんが座って、また視線を感じる。……あたしの顔になにかついてるのかな。

「じゃ、乾杯!」

 あたしだけウーロン茶にしてもらって、他のみんなはお酒で乾杯する。ちびちびと飲んでいると、自己紹介がはじまった。知らない女の子ふたりは、るみちゃんとさきちゃんというらしい。男の子の名前はけんたくんとこういちくんと、伊田くんはかずきくんというらしい。……すぐ忘れそうだ……。
 運ばれてきた食事をちまちま食べながらみんなの談笑を聞いていると、背後から声がした。

「ごめん、遅れた」

 一瞬、心臓が止まるかと思った。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは。

「……先輩……?」
「え?」

 違う。尚人先輩ではない。そんなことはすぐに分かった。でも、声も顔も、そっくりで、少し長い黒髪は先輩が髪を切る前と同じだった。

「ああ、一応うちらの先輩には当たるよ。数学科の三年の先輩」
「……あ、そうなんだ……」
「はじめまして、成沢直樹です」
「あ、相沢比奈です……」
「比奈? どうしたの?」
「ううん……なんでもないの……」

 驚きを隠しきれない。ここまで似ていると、兄弟のようだ。先輩のほうがかっこいい、それは間違いない。でも、すごく似ている。