ペアリングは靴の中に
03

 傘を片手に人ごみを歩いていると、鞄に入れた携帯が着信を告げる。

「りんりーん」
『あ、比奈?』

 相手は、大学で出来た唯一の友達のきららだった。アッシュグリーンのボブカットに垂れた目をした可愛い子だ。
 あたしが通っている理学部の数学科は、女の子より男の子のほうが多い。そんな中できららは可愛いから、アイドル的存在だ。そしてあたしと仲良くしてくれるいい子だ。

『今ひま?』
「バイト終わったとこだよー」
『これから夜予定開いてる?』
「うん。なんでー?」
『今友達といるんだけど、飲み行かない?』
「比奈お酒飲めない……」
『ソフトドリンク飲んでればいいじゃん』
「うーん、分かった」

 断りきれずに了承して、待ち合わせ場所を告げてきららからの電話は切れた。
 前にお酒を飲んだとき、尚人先輩に「もう二度と人前で飲むな」と言われたことがあった。理由は分からないけれども、先輩がお説教するってことはかなり怒ってる証拠だから、あたしはもうお酒を飲まないと決めた。
 夕方の駅前は混んでいて、人ごみは苦手だけど、もう慣れたから、傘を閉じてそこに入っていく。上り線は、これから遊ぶんだろう人たちで溢れていて、そしてあたしもその中のひとりで。
 告げられた駅の名前に、降りる準備をする。少しずつ人ごみを掻き分けて、降りますアピール。
 無事到着して、ICカードを通して駅を出ると、きららと数人の男女が立っていた。

「あ、比奈ー。こっちこっち」
「はあいー」

 きららのもとに駆け寄ると、視線を感じた。くるりと振り返ると、知らない男の子があたしをじっと見ている。ちょっと怖い。

「ごめん、比奈」
「う?」

 きららが、顔の前でぱしっと手を合わせてごめんのポーズをする。

「飲み会じゃなくて、今日は合コンなのです!」
「えっ」

 合コンって……ボーイミーツガールなあれのこと?
 梨乃が時々付き合いで合コンに行くけど、つまらないっていつも言う。ご飯を食べてカラオケして、男の子が全部金払ってくれるからただでご飯食べられて、そこだけはお得。って言ってたような気がする。……今日、梨乃も晩ご飯いらないんだよね。

「ご飯お得?」
「まあ、男子が払ってくれるって言ってるし、お得だけど……」
「ふうん、梨乃がね、いつも合コンつまんないって言ってるから、一回やってみたかったんだ!」
「へぇ……比奈絶対嫌がると思って言わなかったのに」
「なんで比奈なの? 他の子誘うとか……」
「比奈の写メ見せたらこの子連れてきてって、伊田くんが言ったんだもん」
「伊田くん?」