ドアは涙の音で閉まる
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 バタン。ドアが閉まる音と同時に目を開けた。
 まばたきをして、一滴のしずくが落ちたこめかみに触れた。
 まばたきを繰り返すと、涙があとからあとからぽろぽろとこぼれ出し、こらえきれずに起き上がった。
 ぱたぱたと毛布に落ちる涙を止める方法をあたしは知らない。毛布が涙を吸い込む。もう、何粒溢れたか分からない。
 顔を両手で覆った。指が手のひらが濡れた。こらえていた嗚咽で喉が引きつった。手を握ったりして涙をこらえようとしても、所詮無駄なことだった。

「……っうわああああ」

 もうだめだ。我慢できない。
 いくら泣き叫んでも先輩はもうここへ戻ってこない。さよならと、ありがとうと、あたしの名前を呼んだ寂しい声の持ち主は、もうここへは帰ってこない。
 それでも泣き叫ぶのはやめられなかった。枕に顔を押し付けて泣き喚く。先輩がいれば、どうしたの、とおろおろしながらこの髪を撫でてくれた。大丈夫だよと頬にキスをしてくれた。
 もう、いない。
 神様がいるとしたら、ちょっと残酷だ。あたしからこんなふうに先輩を奪ってしまう。

「うえええん」

 ねえ、先輩、約束してね。必ず、あの桜の木の下に帰ってきてね。いつまでも、待つから、必ず、いつか。
今は少しの間のさよなら。

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