ドアは涙の音で閉まる
09

 今日から、比奈たちも春休みだ。チャイムが響くのを聞きながら校門に寄りかかっていると、二年生や一年生の女の子にじろじろと見られた。中には声をかけてきた子もいたが、恋人待ちというのを知っているので、軽い挨拶程度だ。

「先輩!」
「ん」

 手をつないで歩く。比奈は、今日から三日俺の家に泊まりこむらしい。三日後俺はここを去る。
 アパートに着いて鍵を開ける。俺は、この部屋にあるものほとんどを捨てて、キャリーバッグひとつで日本を発つ予定だ。テレビもソファも棚も、ベッドも何もかも置いていく。必要なのは服といくつかの小物だけだ。テレビをはじめ、家具類はベッドをのぞき全部粗大ゴミに出したりしてしまったし、必要のないものはすべて昨日のゴミの日に出してしまったため、だだっ広い空間と化していて、もうこれは俺の部屋とは呼べなかった。

「比奈、ココア飲みたいな」
「ああ……冷蔵庫も捨てちゃったから、もうペーストないよ」
「ガーン。じゃあ、お水にサッと溶けるココア買いに行きましょ!」
「うん、いいけど」

 来た道を引き返して近所のコンビニに行く。ココアと、ついでに今日の夕飯を物色する。比奈には悪いが冷蔵庫がないのでインスタントで我慢していただくほかない。

「比奈あ。どれがいい?」
「んーと、比奈はこれ」
「分かった」

 かごにココアとインスタントの麺類を入れて、俺たちはうろうろとコンビニを一周する。アイスが食べたいという比奈の願いを聞き入れて、レジに出す。
 帰り道、ガリガリくんを頬張りながら、比奈はご機嫌で歩いていた。がさがさと歩くたびに音を立てるビニール袋を左手に持って、右手は比奈の左手を握る。三月のぽかぽかとした太陽が俺たちを暖かくする。
 溶けかけたアイスを追いながら、比奈が首をかしげたすきに、しゃら、と音がして、それが比奈の首にかけられたネックレスのものだと分かる。俺の鎖骨にも同じものの感覚がある。比奈の指輪よりもだいぶ大きいが。

「比奈、前見て」
「う、うん」
「食べるのが遅いからそうなっちゃうんだよ」
「う、うるしゃいです!」

 手をべたべたにしながら、比奈がアイスを舐め上げる。はやく帰って洗い流さないと、と、少しだけ歩くペースを上げた。