ドアは涙の音で閉まる
07

 卒業式の収穫と言えば、髪の毛を黒くしたあゆむが見られたことくらいだ。金髪に慣れすぎていたせいか、あまり似合っていない。あゆむ自身も、「俺は地が茶髪なんだから似合うわけねぇだろ」とぼやいていた。旭さんは「黒髪のあゆむもかっこいい……」、もう馬鹿につける薬はない。

「ついに卒業かあー」
「純太は短大だっけ」
「うん。尚人はイタリーに行っちゃうんだよね! 純子寂しい!」
「いつから女の子になったの」
「なんか俺、ものすごい女装似合うなーって自覚してしまった」
「癖になりそう?」
「うーん……どうだろ。あっ、二ノ宮あー!」

 純太が挨拶もせず去っていった先には、純太の恋人がいた。同じ短大に通うらしい。二ノ宮さんは真面目だからもっとレベルの高いところ(純太の進学先は正直あんまり偏差値は高くない)に行くのかと思っていたが、純太いわく真面目だからと言って頭がいいわけじゃない、だそうだ。ちょっと失礼だが、なるほどそれなら分からなくもない。
 皆が泣いたり写真を撮ったりしているのをすり抜けて、比奈の姿を探す。小さいから人ごみに埋もれてしまうと見つけるのは難しい。しかし、俺を探すのは比奈からすれば容易なことで、背後から「尚人先輩!」と名前を呼ばれるのと同時に、背中に思いっきりタックルされた。

「比奈……」
「第二ボタンちょーだい!」
「へ?」
「先輩の第二ボタン!」
「いいけど……なんで?」
「……なんでだろう?」

 梨乃ちゃんが、はやく行かないと他の誰かに取られちゃうかもよ、と言ったらしく、なんとなく焦ってもらいに来たらしいが、本人もその意味を分かっていないらしい。ふたりで微妙な距離を取りつつ黙って見つめ合っていると、比奈の後ろから梨乃ちゃんがやってきて、何してるんですか、と呟いた。

「第二ボタンって何の話?」
「え、知らないんですか?」
「何をー?」

 梨乃ちゃんが、もっともらしく人差し指を立てて咳をする。

「卒業する好きな人の第二ボタンをもらうっていう習わしがあるんですよ」
「なんで?」
「さあ。知らないけど、心臓に近いからじゃない? 記念にもなるし」
「なるほど?」