ドアは涙の音で閉まる
06

「せんぱあーい」

 間の抜けた声で、我に返る。ぼんやり空を眺めていた目をドアのほうへやると、鞄を持った比奈が立っていた。

「帰りましょ!」
「うん」

 手を繋いで屋上を後にする。
 明日は卒業式だ。その十日後、俺は日本を出る。比奈にもそれが分かっていて、無理して明るく振舞っているのが痛々しい。俺のせいでそんな演技をさせているというのが、胸を締めつける。
 繋いだ手を振りながら、比奈は鼻歌を歌いながら歩く。比奈の鼻歌はいつも同じ曲だ。誰の歌か思い出せない。でも、聞くほどのことでもないし、比奈の鼻歌は耳に心地いいので途中で中断させるのも忍びない。
 そんなこんなしているうちに、俺のアパートに着く。

「先輩、明日卒業式だよね」
「うん」
「……そのあと毎日、先輩のおうちに来てもいい?」
「いいよ。学校が終わる頃迎えに行く」
「ほんと?」
「うん」

 一人掛けのソファに、いつものように俺が座ってその足の間に比奈がちんまりと座る。そんな話をぽつぽつと、少しの沈黙を挟みながら静かに話している。タマは、窓から漏れる日の光が当たる床でまどろんでいる。
 比奈の腰に腕を回して軽く抱きしめると、比奈が安心したように細くて薄い背中を俺の胸にすり寄せてきた。鼻を比奈の頭に埋めると、シャンプーのいい香りがした。

「先輩、お日さまのにおいがする」
「ほんと? ずっと屋上で寝てたからなあ」
「このにおい、好き」

 比奈が身をよじって俺のシャツに片頬を埋める。体育座りしているから、スカートがめくれて細い太股があらわになる。パンツももしかしたら見えそうだ。腰に回していた手を太股に滑らせると、くすぐったそうにしながら、俺の手の上に自分の小さなそれを置いた。抵抗の意思はない。あるのは羞恥心だ。
 いとおしい。そう思うのに言葉は出ない。だから指先に想いを込める。出来る限りの優しさで触れる。薄いガラスの花瓶を抱くように、ゆっくり、ソフトに、言葉に出せないこの気持ちを、比奈が感じ取ってくれればと思う。感じ取ってくれなくても、エゴでも、それはそれでいい気もするけれど。
 ベッドまで行くのが億劫だ。キスを交わしながら、財布に手を伸ばして小銭入れからゴムを取り出す。
 片手でうまく準備を済ませ、比奈の腰を浮かして宛がう。ぎゅっと閉じた目にキスをして、俺もゆっくりと目を閉じた。