嘘に優しさなんかない
03

「はぁ? あんた何言っちゃってるの? 比奈はどうするの、泣かせたままか、ええ?」
「すみません」

 思わず謝罪の言葉が出る。般若の形相で俺に詰め寄る後輩が、ふっとため息をついた。

「拓人さんがイタリアに帰るって言い出したときから、本当は怪しいと思ってたんですよね」
「えっ」
「急でしたもん。何かあったと思うじゃないですか。先輩の部屋に真新しいパスポートが置いてあるし」
「俺、目につくようなところに置いてた?」
「テレビの上に」
「あー……」
「あーじゃないですよ。比奈のこと。遠恋になる覚悟できてるんですか?」

 遠恋? 俺はぼんやりと顔を上げた。

「……比奈とは、一回別れようと思う」
「はぁ!? ぶん殴りますよ!?」
「いたっ、どうでもいいけど言いながら殴るのはやめてよ」
「別れるって!?」
「比奈に甘えっぱなしなのが嫌でイタリアに行くのに、比奈と連絡取り合ってたら意味ないと思うんだ」
「……」

 虚を突かれた様子で黙り込んだ梨乃ちゃんに、俺はぼそっと言う。

「絶対、強くなって日本に帰ってくる。そのとき比奈がまだ俺のこと好きなら」
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ」
「……そうだよね。でも、このまま比奈と切れちゃっても、それはそれで仕方ないと思うんだ」

 それに、と思う。
 もし比奈と俺が運命の相手同士なら、赤い糸でつながっているのなら、きっと元に戻れる。戻れなかったときは、運命の相手じゃなかったということだ。こんなことを真面目に考える脳には呆れるが、運命ってものはやっぱり存在すると思う。必然でも偶然でも、だ。

「……比奈は、きっと何年経っても、先輩のことを待つと思いますよ」
「あは、それなら嬉しいけど……」
「消極的になってどうするんですか。もっとポジティブになってくださいよ、まずはそこからでしょ?」
「ああ、うん。そっか」
「で、比奈は先輩に会いたくないって教室で負の空気撒き散らしてますけど」
「……」

 梨乃ちゃんから、弁当箱を手渡される。この状況でそれを出すのか。思わず口元が引きつる。