神様は見ているだけで
07

「ひ、ひなたんは好きな食べ物とかあるかなぁ?」
「……」
「怯えた表情も萌え……」
「…………」

 何この人怖い。
 なんかハァハァ言ってるし腕掴んでくるし手がなんかべとべとしてるし顔近いし髪の毛ねとねとしてるし比奈たんって呼ぶし鼻息荒いしなんかくさいし……あっやだもう片っぽの腕も伸びてきたやだやだ怖いなにすんの……

「旦那様。おいたが過ぎますよ」
「……なっなんだよお前……」
「しぇっしぇんぱい……」
「ああ、泣かないで。怖かったね。ごめんねすぐに来れなくて」

 男の人の腕を払ってあたしを背中に隠してくれたのは、超カッコいい執事さんだった。
 先輩の匂いを間近に感じて、体温が上昇した。ちらっと上を見ると、すごくきれいなお顔があって、ますますお熱だ。

「しっしし執事が旦那様に逆らっていいと思ってんのかっ」
「残念ながら、俺はイレギュラーな似非執事なんですよ、旦那様。人の彼女にちょっかいかけてる暇があったらご自宅で萌えキャラ相手にマスでもかいてたらいかがですか旦・那・様」

 なんだか単語の意味がよく分からないけど、たぶんあんまり良いことは言ってない顔だ。語尾に旦那様ってつければいいってもんじゃないんだぞっ、これぞ慇懃無礼!
 冷や汗を浮かべて、男の人は先輩をにらみながら図書室を出ていった。

「……大丈夫?」
「うん……ありがとです」
「もっと早く来れたらよかったんだけど……比奈、もう男の接客禁止ね、やりたくないでしょ?」
「はぁい。……いいのかな、そんなの……」
「いいのいいの。なんならずっと俺とペア組んどく?」
「うんっ!」

 結局尚人先輩は、ずっとあたしのとなりにいてくれた。見れば見るほど、すらっと細い身体に執事さんの格好がとっても似合っている。
 そうして、今年の文化祭も無事に……たぶん無事に? 過ぎていくのであった。