神様は見ているだけで
05

 いそいそと比奈がその狭い隙間に突進する。薄暗くてよかったな明るかったらパンツ見えてるぞ、と思いつつそれを見ながら、梨乃ちゃんはどうする? と聞かれたので、とりあえず出口まで進む、と答えた。びっくりするだけで怖くなんかないのだ。

「じゃ、残り半分頑張って」
「はあい。比奈、出口のところで待っててね」
「あい!」

 それから、ひとりじゃつまらないなあと思いながら、次々に襲いくるしかけをかわして出口まで進む。のれんを出ると、予想外の人物があたしを待っていた。

「Ehi、リノ。怖くなかったかい?」
「全然。なんであなたがいるんですか。比奈は?」
「トイレだそうだ」
「そうですか。で、なんであなたがいるんですか」
「恋人の学校の行事なんだ、参加するべきだろうと思ってな」
「誰の学校だって?」
「恋人、リノのことだろう?」
「何か勘違いしてるみたいですけど……」

 あたしは、少し遠くの入り口で受付をしている高城先輩を見て、そっちに向かって歩く。

「あ、梨乃ちゃん。どうだった? 怖かった?」
「全然。あたしこういうの平気なほうなんで」
「そっか。でもすごい悲鳴、聞こえたけど……一緒にいた、ひなちゃん、だっけ? その子の声?」
「はい。裏技使って途中でリタイアしました」
「ああ、見てたよ。ダンボールの隙間から這い出してきた」
「リノ、どうしたんだ」
「あ、拓人さん、紹介しますね。あたしの彼氏の高城先輩です」
「えと、どうも……」
「彼氏? 彼氏は俺だろう」
「そう思ってたのはあなただけです」
「梨乃ー拓人さーぁん」
「ああ、比奈」
「ヒナ、嘘だろう? 彼がリノの恋人だって?」
「嘘じゃないですよー。高城先輩は梨乃の彼氏さんですよー」
「……」

 言ってやった。もう拓人さんとはこれきりだ。未練がましい自分がいるのも分かっているが、それでもあたしは新しい一歩を踏み出さなきゃならない。この人といても幸せになれないんだ。高城先輩はあたしに安心をくれる。それがいいのだし、それでいいのだ。