神様は見ているだけで
04

「ぎゃー!」
「……」
「ふにゃー!」
「……」
「いにゃー!」
「……」

 さっきから比奈はあたしの腰に引っ付いて離れない。ぬるっとしたこんにゃくのようなものが頭上から顔を狙ってきたり、何もないと思っていた壁からいきなりわらわらっと手が数本突き出して比奈の手首を握ったり顔に触れたり、突然背後から唸り声を上げて白目を剥いた男子が突進してきたりと、なかなかちゃちなお化け屋敷だ。驚きはすれどちっとも怖くない。あたしは。
 比奈は、そうではないようで、ひとつひとつの仕掛けにご丁寧に叫び声を上げている。もう半分泣いているようにも見える。薄暗いのでそれは定かではないが。

「りっ、梨乃お〜、もう出ようよぉー」
「途中下車はできないみたいよ」
「そんなぁ〜」

 そのときだ。視線の端に何か動くものを見つけたと思えば、一気にそれが四つんばいで、しかもものすごいスピードで近づいてきて、比奈に襲い掛かった。

「にぎゃー! やだー! やだー!」
「……尚人先輩……」
「えっ? あっ、しぇんぱい!」
「ああ、ばれちゃった」

 比奈に思い切り飛びかかったのは、尚人先輩だった。ばれたと同時にへにゃりと相好を崩し、比奈を抱きしめる。安心したのか、比奈は先輩の胸に顔をつけてわんわん泣き出した。

「比奈怖かったよー! 手とかいっぱい出てきたのー!」
「よしよし。怖かったね」
「えぐ、ぐすっ、もう帰る〜」
「ごめんねー。ちょうどここ半分の地点なんだ。あと半分頑張ってね」
「先輩は一緒に来てくれないですかぁ」
「俺はここのお化けだからなあ、無理だよ」
「もう比奈行きたくないー」

 めそめそ泣き出した比奈に、先輩はぽりぽりと頬を掻きながら、困り果てたように目を細めて、考え込む。それから、しょうがない、といったふうに引っ付いていた比奈をべりっとはがしてしゃがみ込む。

「ここのダンボール、床とつながってないから、身体平たくして、そうそう、そうやったら抜け出せるよ。ちょうどここつなぎの廊下だし」
「やっ、やったあ!」