神様は見ているだけで
03

 白雪姫は目覚め、ハッピーエンド。幕が閉じ、ナレーションの「おしまい」というセリフで劇は終了した。拍手に包まれる体育館と、幕の向こうで劇の成功を祝う歓声がいかにも文化祭らしい空気をかもしていた。

「なんていうか、ちびちゃんすごく自由だったね」
「触られるのが嫌なら小人全部女の子にすればよかったのに」
「あ、そうだよー。なんでよりによってあんなむさ苦しいの選んだのかな。俺みたいなタイプとかいなかったのかなあ」
「……小人がごついってのが、ギャグポイントだったりして」
「ああ、なーるほど」

 言いながらじゃがバターを頬張る純太と立ち上がって、体育館の外に出る。熱気から解放された外は、肌寒い。

「そろそろ俺シフト回ってくる」
「あ、そうだね。俺もだ」
「比奈のあの格好写真撮れるかなあ」
「体育館裏、行ってみる?」

 ふたりして体育館裏へ向かうと、セットをわっせわっせと運び出す男子と、小物を片付ける女子が入り乱れている。次の軽音部の準備も同時に行われていて、カオスな状態だ。そんな中、俺はふりふりのドレスを着た比奈と、王子様の格好をしたままの梨乃ちゃんを見つけた。
 人ごみを掻き分けてそこへ近づくと、俺と純太に気づいたふたりが手を振ってきた。

「お疲れ様」
「先輩、見に来てくれたですか?」
「うん。すごく自由だったね」
「演技上手だったでしょ!」
「……うん」

 とりあえず、比奈と梨乃ちゃんとのツーショットを携帯のカメラに収める。あとでふたりに送ってあげよう。
 それから、俺と比奈を梨乃ちゃんに撮ってもらう。そのままだと身長差がありすぎるので、俺は彼女を姫抱きにして近くから撮ってもらった。比奈は顔を桃色に染めながらも、笑顔で俺に寄り添うように抱かれていた。

「俺これからクラスの係なんだけど、ふたりは?」
「今日はもう自由です!」
「あとで先輩の店も行きますね」

 俺の店は、ふたつ教室を使った大きなお化け屋敷だ。俺はこの青い目と白い肌から、西洋のお化けをやることになっている。と言っても、通路の奥のほうから笑いながら四つ足で突進するだけで、西洋とかいう設定はまったくいかされていない。正直、全体的にちゃちなつくりだが、比奈を怖がらせるには十分だろう。

「じゃあ、待ってるね」
「あいあいでーす! あっ、でも梨乃と一緒には回れないんだっけ」
「今日は平気よ。高城先輩とは明日回るから」
「そか。じゃあいいやー」

 三年の中でもわりと人気だった後輩を見事ゲットしたのは、俺のクラスの高城くんらしい。たしかに、優しそうで人当たりもよさそうだ。演技力が極端になく、お化けの役がどうしてもできないので、受付に回されていた。 今日の午後からシフトのはずだ。俺と同じシフトだ、と思った記憶がある。
 さて。比奈を怖がらせるためにもとっとと現場に行こう。俺は比奈たちに手を振って、純太を腕に巻きつけながら踵を返した。