神様は見ているだけで
02
『むかーしむかしのお話です……』
ナレーションが話している途中で、閉まっていた幕が両側に引かれる。舞台のセットはなかなか豪華で、手作りにしては上出来だ。
白雪姫が出てこないまま、物語は進んでゆく。そして、女王役の女の子が鏡に問いかけて、それは白雪姫です、と返答したのを合図にしたのか、舞台の右側にぱっとスポットライトが当たって、可愛いドレスに身を包んだ比奈が現れた。
「ちびちゃんかーわいい」
「うん、可愛い」
劇は進んでいく。
「にゃー! 殺さないでください! お願いです!」
「ああ、こんな幼気な姫を殺すなんて、俺にはできない!」
猟師役の男子が、比奈を舞台の袖に追いやって逃がす。にゃーって。にゃーって。
舞台はいったん暗くなり、明るくなったら、背後のセットが森の中の景色に変わっていて、そこを比奈がうろうろと行ったり来たりしている。そして、一軒のロッジを発見し、ドアに入る。ここでまた舞台は暗転。次はロッジの中の風景だった。なかなか凝ってるな。
そして登場してくる小人たち…………全員比奈より大きい男子たちだった。小人のくせに。男に囲まれてびくびくしながら、比奈が必死の演技をする。
「こ、ここに置いてくれるなら、掃除洗濯家事親父全部やります!」
一個明らかにおかしいのがある。それをスルーして、物語は進んでゆく。
物売りに化けた女王に二度ほど殺されかけて、本当なら小人に助け起こされるはずが、触られるのが嫌なのだろう、自分で起き上がるという白雪姫にあるまじき行為だ。そんなんだったら小人を女の子にすればよかったのに。やっぱりキャスティングに無茶があるよ。
「美味しい林檎はいかがかな」
「いただきまぁす」
姫のくせに大きく口を開けて林檎に噛り付く。あ、本物なんだ。比奈はそのまましゃくしゃくとしばらく食べ続け、女王役の子に小突かれて、慌てて林檎を落として自分も倒れこんだ。完全に劇だって忘れてたな。
男子に触られるのがどうしても嫌なようで、ガラスの棺に自ら入ろうとしている比奈を、一番小さな男子がぽかっと頭を叩いて棺に押し込んだ。そして嘆き悲しむ男衆七人。正直暑苦しい。と言うか比奈の頭叩いた奴、顔覚えたよ、俺。
そこへ、梨乃ちゃんが颯爽と登場した。
「なんと美しい姫なんだ!」
きれいに染め上げられた金糸を揺らして、梨乃ちゃんは片膝をついてかがみ込み、比奈にぷちゅっと口づけた。もちろんそれはフリで、本当は頬にキスをしたのだとあとで本人から聞くことになる。