神様は見ているだけで
01

 最新の音楽からアニメの曲、演歌だのトランスだのが交じり合って、いつもより慌しい校内。人々の声が飛び交い賑わう。そう、文化祭。
 俺は純太と連れ立って、熱々のじゃがバターを食べながら体育館へ向かった。これから、比奈のクラスの劇が始まるのだ。恋人が主役なんて、彼氏としては絶対見逃せない……なんてのは建前で、本音はあの比奈に演技なんかできるのかという冷やかしのつもりだ。純太もそれに近い気持ちらしく、ちびちゃんが白雪姫かあ、とじゃがいもを口に運びながらミニスカートを揺らした。
 そう、ミニスカート。純太のクラスでは、今年も性別逆転じゃがバター屋をやることになったらしく、純太はミニスカートにふわふわのトップスを合わせ、ご丁寧に薄化粧までしている。本人はノリノリで、時折俺の腕にしがみついてみたりして、周囲に「私、女の子です。彼氏この人です」とアピールしている。なんだか友人にそれをされるとすごく、すごく複雑な気分だ。

「着いた着いた」
「純太……腕放してよ」
「えー。はいはい。尚人ってば冗談が通じないなァ」
「大きなお世話」

 体育館に着くと、座席はけっこう埋まっていて、俺たちは端っこのほうに座るしかなかった。少し舞台が見づらいが、まったく見えないというほどでもないので、我慢するしかない。……おや、あれは……。

「んん! 比奈ちゃんの雄姿、これに全部納めてやるぞ!」
「まだ比奈ちゃん出てこないのかなぁ〜」

 お兄さん、と亜美さんが、中央辺りの席でデジカメを片手に会話に花を咲かせていた。純太に席を預け、近づく。

「こんにちは」
「あ、尚人くんこんにちはー」
「おう、お前も比奈の劇見に来たんだな」
「はい。今日、お仕事は……」
「なんと俺の担当している作家が早々と原稿を上げてくれてな! 休みをもぎ取れたんだ!」
「私も今日は撮影の予定も何もないから、付いてきちゃった」
「あらあら、桐生くんじゃないの」
「あ、おばさんも」
「家族総出で比奈ちゃんの演技を見にきたんだ!」
「へえ……」

 そこで、ビーッと大きなブザーが響いて、薄ぼんやりと明るかった体育館が真っ暗になる。俺はおざなりにお辞儀をして、慌てて純太のもとへ戻った。

「始まるね」
「うん」