抱きしめたかったのだ
07

「先輩、先輩」
「ん?」
「先輩は、お洋服見なくていいの?」
「拓人くんは?」
「俺は別に……ああ、靴が見たいな」
「俺もないよ。金ないし」
「あ、なんかごめんね、私たちばっかり買っちゃって」
「いや、そんなことはいいんですけど」
「じゃあ、拓人くんの靴見て、終わりにしよっか」
「うん!」

 靴屋でブーツを真剣な顔をして物色する拓人のうしろで、俺もひそかに靴を見る。あ、あのスニーカーかっこいいな……そんなに高くないし……。
 今履いているショートブーツを脱いで、スニーカーを履いてみる。うん、いいかも。

「先輩それ買うですか?」
「うーん、どうしよう」
「先輩のあのピンクのTシャツに似合いそ!」
「やっぱり? こないだ履き潰したスニーカー捨てちゃったしさ……」
「ゲットゲット!」
「うん、そうする」

 多大な量のショップバッグをとりあえず椅子に座っている比奈の隣に置いて、レジに向かう。

「買うのか?」
「あ、うん」

 ショート丈のエンジニアブーツを手にした拓人が、後ろに並ぶ。会計を済ませて比奈たちのところへ戻ると、そこには真剣にパンプスを物色する二人の姿があった。

「まだ買うの?」
「比奈はもう買わないですよ」
「私がね、仕事用に動きやすくて可愛いパンプスほしくて」
「ああ……」

 結局亜美さんは、拓人が会計を終えて戻ってきてもこれというものがなく、散々探しつくした末に「ここに私のパンプスはない!」と突然叫び出し、帰ろうと俺たちに促した。奇妙な人だ。

「あっ、比奈疲れたから休憩したいなー」
「休憩?」
「ああ、スタバでも行く?」
「うん!」
「さっすが尚人くん。比奈ちゃんの言いたいことがすぐ分かるなんて……愛ね、愛」
「はは……」

 うんうんと真顔で頷く亜美さんに、笑うしかない。
 愛なんて冗談じゃない。単なる偽善だ。