抱きしめたかったのだ
06

「フフ、大変だな、お姫様のお守りも」
「女の子って、すごいパワーあるよね……」
「ハハハ」

 笑いながらふたりのあとに続いた拓人の背を追う形で歩く。
 『兄弟にならないか?』。先日言われたその言葉が、頭をよぎる。
 イタリアに、行こうと思っている。それは、自分が強くありたいためで、完全なエゴだ。許されたいと願う。許されざるものだと諦めが襲いかかる。幸せな今の状況を脱して、イタリアで一人で立っていられるように、強くなるために。
 比奈の顔を見るたび、決心は鈍る。もっとこの子といたい、抱きしめていたい、縋っていたい。でも、比奈を愛することと依存することは別だ。今の俺は比奈に、完全に依存している。一度離れなければいけないのかもしれない。

「拓人」
「ン?」
「俺、やっぱりイタリアに行く」
「……どうしたんだ、急に」
「いや、ずっと考えてたんだ」
「……」
「俺にとって比奈は依存の対象で、愛してるなんて絶対言えないし、もっと、比奈を守れるくらい強くなりたいんだ。……一度、リセットするべきなんだ、きっと」
「そうか……」
「先ぱーい、これ、ど?」
「ああ、うん……こっちのピンクのほうが似合うんじゃない?」
「でも白も好きー」
「俺は白だな」
「私はピンクのほうがいいと思うんだけどなー」
「俺もピンクがいいと思うよ」

 二着の色違いのフリルワンピースを身体に当てながら、比奈が首を傾げる。かしげた拍子に、俺があげたネックレスのリングがきらきらと光りながら揺れる。
 試着室に入って、比奈が交互にピンクと白を着てカーテンを開ける。

「やっぱりピンクが似合うよ」
「ピンクだな」
「じゃあピンクにするう」

 これでレジに向かうのかと思いきや、店員にそれを預け、比奈はさらに物色を重ねる。まだ終わらないのか。
結局その店で買ったのはさっきのワンピースだけだったが、そう決めるまでにどれほど時間がかかったか。