抱きしめたかったのだ
05

「あ、カワイイ」
「どれ?」
「これこれ」
「あ、比奈これも好き」
「いいねいいねー」
「あの」
「きゃー、これなんか最高じゃない!」
「……」
「つけてみなよ。……カワイイ!」
「やんっ。素敵っ」

 女性二人の買い物というものがこんなにまったりのんびりしたものだとは、思っていなかった。隣で煙草の箱をいじりながらにこにことその光景を眺めている拓人には尊敬さえ芽生える。この状況で笑えるなんてお得な奴だ。

「ヒナ、こっちはどうだ」
「あら素敵」
「髪の色がおとなしいから際立つだろう」
「ほんとね、あんたセンスいーね」
「一応勉強したからな、一通り」
「ヨーロッパの人は教育にオシャレが組み込まれてるもんね」
「比奈これに決ーめたっ」
「ああん、結局拓人くんの選ぶんだあ。亜美ガッカリ」
「あっあわわ、でもあーちんのも可愛かったんだよ!」
「なあんてね。私も拓人くんのやつのが好きよ」

 長々とアクセサリショップでカチューシャを見ていた比奈と亜美さんが、拓人の進言でようやく長い物色を終え、ゴールドの大きなリボンのついたカチューシャをレジに持っていく。
 荷物持ちに志願したまではよかったが、かれこれ二時間、駅ビルでショッピングだ。ボーナスが出たお兄さんにお小遣いをもらった比奈が、本当ならお兄さんと買い物に行くはずだったのに急な仕事で行けなくなって、亜美さんと俺が駆り出されたわけだ。そして拓人は俺についてきたおまけみたいなものだ。
 ショップバッグをいくつも持たされて、俺の両手は埋まっている。拓人も片手にいくつかショップバッグを提げている。拓人が持っているのは、亜美さんの買ったものだ。そして俺が持っているのは、比奈のもの。いくらお小遣いをもらったかは知らないが、湯水のように使う、使う、使う。見ていて気持ちいいほどの大人買いだ。ただ、若い女性向けの店はわりと安い品物が多いのだが。

「次は、あっち行こう。まだ行ってない」
「うん!」

 新たにカチューシャの入った袋をにこっと笑って手渡され、比奈は亜美さんに連れられて次の店に向かう。……まだ見るのか……。