抱きしめたかったのだ
03

「は?」
「だからあっ、なんで拓人さんと付き合ってるって教えてくれなかったのぅ」
「……ごめ、もう一回言ってくれる?」
「もー! ごまかそうとしても駄目なんだからね!」
「いや、駄目も何も、付き合ってないし」
「ほへ?」
「それ、どこ情報?」

 呆気に取られたような顔をした比奈に、逆に聞く。拓人さんだよー、と間延びした声で言われ、あいつはまた勝手に余計なことを……。

「付き合ってるわけないじゃん」
「でもー拓人さんはー」
「あの人女ならなんでもいいんだから、何人彼女がいると思ってるの?」
「えっ、ひとり」
「あたしが知ってるだけで四、五人いるよ。たぶんイタリアに残してきた彼女もいっぱい……」
「ええええ」

 たしかに、拓人さんと寝た。それは認める。しかしそれは彼の勝手な都合で呼び出されて数回しただけだし、付き合おうとは言われていない。本人は付き合っているつもりだったのだろうか、たくさんいるセフレのような扱いは正直言ってやめてほしい。
 比奈の手前、彼女という単語を使ったが、おそらく全員セフレ。顔は男前だし意外と頭もいいし、多趣味でなんにでも手を出してみるチャレンジ精神が高じて、趣味の合う女はたくさんいて、ナンパすればいくらでも引っかかるわけだ、顔は男前だし。そう、あたしの好みの男前だから、迫られたとき拒めなかったのだ。あたしの馬鹿野郎。今更後悔している。

「拓人さんは、そんなことしないよお」
「するんだよ。比奈は拓人さんの何を知ってるのよ」
「優しいところー。先輩のが優しいけどね!」
「のろけんな」
「う」

 こつっと比奈の頭を叩く。たしかに、女には優しい。セックスもうまい。慣れているな、というのが抱かれた時の感想だ。煙草に火をつけながらのピロートークもそりゃあもう甘くてくらりとくる。しかし、あたしはこう見えても堅実で、何人もセフレのいる男と付き合ったり、まして好きになったりしない。……はずだったのに。ああ、あいつが好みの男前なせいだ。あたしの馬鹿野郎。

「拓人さんに今度会ったら、死ねはげって言っといてね」
「えっいやだよー。自分で言ってよー」
「分かったよ」