鍵の隠し場所を知る男
09

「尚人ー、見たよォ、ロッソ」
「超かっこいいじゃん!」
「……ありがと」

 次の日学校へ行くと、ロッソを頭を突き合わせて読んでいる女の子たちがそこかしこで見られた。素直に礼を言うと、隣の席の女の子が言う。

「やっぱモデルやるんだ?」
「いや、まだ決めてない……」
「でもゲンセキで紹介された子って、必ず売れるよね」
「あるある、恭平とか志筑レンとか」

 好き勝手言い出す女の子たちはもうほうっておいて、俺は机に突っ伏した。昨晩バイトであまり眠れていないので、少し寝不足気味だ。ああでも、この心地いい疲労感、なんだろう。やり遂げてやったぜ、みたいな感じの。達成感?
 sciantoは、落ち着いたたたずまいに恥じない客層である。きゃあきゃあ騒ぐOLもいなければ、飲み会のように大騒ぎをするサラリーマンもいない。いかにも大人のお姉さん、といった感じの人に誘われたりすることもあるが、それも酒の席での遊びのひとつのようで、軽く断れば追撃してこない。

「尚人寝てんのー?」
「寝てる……」
「起きてるだろ」

 ぺし、と頭をはたかれて、仕方なく顔を上げると、沢山先生が仁王立ちしていた。

「……何か?」
「お前雑誌に載ったそうだな」
「はあ」
「学生の本分というのはな……」

 長い長い、沢山先生のお説教は、予鈴が鳴って担任が来るまで延々と続き、説教の締めには、「夢ばかり見ていないで勉強して大学へ行け」と非常に教師らしい――それこそ教師の本分だ、大学に行かせるのが仕事なのだから――言葉をぶつけて去っていった。女の子たちのブーイングが担任の「席に着け」という言葉をかき消す。

「尚人は才能あるし」
「夢見るなとか意味分かんないからね」
「アイツ教師として最悪じゃね? 生徒の希望潰すとか意味分かんない」
「どうどう……」

 なぜ説教された俺より皆が憤ってるんだか。
一時限目の新品同様の古典の教科書を取り出して、俺は担任が早口に言う連絡事項を聞いていた。