鍵の隠し場所を知る男
07

「うわあい!」
「わーすごい」

 比奈と梨乃ちゃんにコーヒーを淹れながら、背後から聞こえる賞賛に襟足がかゆくなる。
 ロッソの十月号が発売されて、俺が二ページにわたり服を着てポーズを決めているそうだ。『ゲンセキ』という新人発掘のコーナーに載っているらしい。足立さんめ、今頃きっとしたり顔でいるに違いない。完全に俺をそっちの世界に引き込もうとしている。

「先輩かっこいい!」
「こんな服も似合うんですね」
「比奈はー、これが一番好き!」
「あたしはこの服かな」

 今日の学校帰りに、コンビニに寄ってロッソの十月号を買って、梨乃ちゃんが珍しく俺たちに付いてきた。ちょうど今日発売なのだ。

「先輩は見ないですかー?」
「ん、ちょっと待って」

 比奈のマグカップに、コーヒーと牛乳を入れて、梨乃ちゃんのコーヒーには砂糖を入れて、自分の分はブラックで、トレーに乗せて運ぶ。ローテーブルにそれを置いて、雑誌を比奈の横からちらりと見る。
 たしかに、なかなかうまく編集されている。若い男女向きというロッソは、男女の両方の着こなしが掲載されていて、街で流行っているものも紹介しているファッション雑誌だ。故に若い男女が購買層だ。明日学校で誰に何を言われるやら。
 撮影の合間に誕生日や年齢や好きな食べ物などいろいろ聞かれたが、まさかプロフィールに利用されるとは。名前はヒサトとなっている。完全に新人モデル扱いだ。
 コーヒーを一口すすって、ページをめくろうとすると、インターホンが鳴ってドアが開く音がした。

「ciao bella! 皆さんお揃いで、だな」
「あ、拓人さん! これ見てください!」
「ハン? ……Oh、ヒサトじゃないか」
「すごいでしょ!」
「モデルになったのか?」
「まだ考え中」

 拓人が、難しそうな顔をして黙る。……なんだ?
 梨乃ちゃんの隣に座って真剣な顔で『ゲンセキ』のページを見ている拓人に、比奈がページの中の日本語を読み聞かせている。

「これ、プロフィールです。ヒサト、三月二十日生まれ、十七歳、好きな食べ物はキャベツの味噌汁!」
「なるほど」

 比奈にうんうんと頷きながらにこりと笑った拓人が、少し慎重に――俺にはそう見えた――問いかける。

「ヒナは、ヒサトがモデルをするのに、賛成か?」
「うん! だって、せっかく素敵なんだもん!」
「そうか……」

 穏やかに笑った拓人が、比奈の髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。くすぐったそうにした比奈が、にこっと笑ってされるがままになる。