鍵の隠し場所を知る男
05

「こんにちは」
「すみません、補習がなかなか終わらなくて……」
「いやいや」

 足立さんは、指定したファミレスにすでに来ていた。補習が長引いて二十分の遅刻だ。頭を下げると、学生さんは大変だ、と笑われた。
 足立さんの手前で、ドリンクバーのグラスに入ったコーラがぱちぱちと歌っている。何か注文しなよ、と言われ、食事代わりにティラミスを注文した。

「まさかそれがご飯?」
「あ、はい」
「細いんだからもっと食べなきゃ駄目だよ」

 言いながら、店員を呼びつけるボタンを押して、一番カロリーの高そうなハンバーグのプレートを注文している。

「奢りだから、遠慮しないで食べな」
「はあ……」

 せっかく奢りだというのに喜べない。というか、完食する自信がない。奢りでそれはさすがに失礼だろう。
運ばれてきたティラミスをつついていると、ミックスグリルがやってきた。ハンバーグだけでなく、なんかいろいろなものが乗っている。全部食べきれる気がしない。

「いただきます……」
「はいどうぞ」

 もきゅもきゅと無心で腹に詰めていく。何も考えないようにして、目の前の大盛りを片付けていく。

「食べるの遅いね」
「少食なんで……」
「もっと食べなきゃ、だから細いんだよ、キミ」

 そんなことは分かってる。しかし食欲のないものはないのだ。幼少期ろくな食生活を送ってこなかったからなのか、学校の給食もあまり食べれなかったし、今こうして食べ盛りの高校生男子なら余裕で平らげるはずのハンバーグに苦戦している。

「さて。あらかた食べ終わったみたいだし、本題に入るけど」
「あ、はい」

 コーンを一粒ずつ口に入れていると、足立さんがふと真剣な顔になった。きっと仕事用の顔だ。

「あれから、考えてくれたかな、モデルのこと」
「いろいろ考えたんですけど、いまいち決心できなくて……」
「わたしはね、キミに何かを感じたんだ。惹きつけられるような何かを。撮影の最中も物怖じしないで自然な姿勢で臨めていたし、素質があると思った」
「……」
「キミには人の心を動かす何かがある。分かりやすく言うと、カリスマ性かな」
「そんなこと……」
「キミは、自分のことを過小評価しすぎている気がするな。もっと胸を張って、自分の才能に胡坐をかくくらいがちょうどいいよ」
「……」

 才能? カリスマ性? さっきからこの人は何を言っているんだろう。俺に、才能があるって、カリスマ性があるって?
 お世辞もここまできたら拍手ものだ。

「俺には才能なんかないし、ましてカリスマ性なんて……」
「そこ。キミの悪いところは、後ろ向きすぎること。何をそんなにびびってる?」
「俺は……」

 俺は、何をそんなにびびってる?