鍵の隠し場所を知る男
01

 熱いコーヒーを一口飲んで、ふうっとため息をつく。
 最近頭を悩ませていることがある。他でもない従弟――ヒサトのことだ。俺といるときに、目が死んでいる。俺限定じゃない。リノがいたってタマがいたって駄目だ。ヒナがいないと、その目は輝かない。これは、リノも言っていた。「先輩、学校で死んでる」とこの間ぼやいていた。
 ひとりの女性をそこまで愛すことができるのはいいことだ。しかし、ヒナに依存しきっている今の状態を、彼自身がよしとしないのもなんとなく感じている。
 このままじゃ駄目だ。そんなふうな意味合いのことを、先日もらしていた。

「俺、今比奈がいなくなったら首吊るかも」
「なんだって?」
「比奈に嫌われたら屋上から飛び降りるかも」
「ヒサト……」
「まあ、全部仮定の話なんだけど。今んとこ比奈からは嫌われてないし、急にはいなくならないだろうし」
「……」

 それを一緒に聞いていたリノには、「おどけて言っても目がマジだった」と指摘されていた。実際、目は笑ってなかった。実際、ヒナが離れていったら自殺しかねない。彼は、その繊細な表情が語るとおり、精神力が強くない。
 もう少し図太くならないと生きていけないぞ、そう言いたかったけれどきっとそう指摘すれば彼は、「じゃあ俺死ねばいいんじゃ」なんて言い出しそうなので、怖くて言えない。