信じるなんて馬鹿だよ
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 顔以外に長所が見つからない。比奈はなんて言うのだろう。もしかしてその場の雰囲気に流されただけ?
 顔を赤くして硬直した比奈は、たどたどしく言葉をつむぎ始める。

「……やさしいところとか、笑顔が素敵なところとか、声とか、比奈の言いたいことちゃんと分かってくれるところとか……」
「ふうん……」

 やさしいだって、俺が。とんでもない。
 でも、比奈がそう思うのなら、俺は偽善者にでも何にでもなってやる。
 はじめから欲しがらなければ失うこともない。今までずっとそう思って、俺はいったい何を諦めてきたのだろう。考えるのは途方もないことで、俺は自分を恥ずかしく思った。諦めた、なんてばかばかしい。ほんとうはずっと望んでいたくせに。

「先輩は 比奈のどこ好き?」
「俺は……」

 隣でいじいじと人差し指を動かす比奈を思わず抱きしめた。

「先輩?」
「全部かな……気持ちが落ち着く」
「……ほんとう?」
「うん」
「うれしい!」

 きゅっと抱きしめ返してきた小さな腕を、手放すことなんて今の自分には考えられない。ずっとこのままこの小さな身体を抱きしめて過ごしたい。
 いつかこんな幸せも終わるのだろうか。嫌われて去っていく彼女を想像することは容易だが、俺が彼女を嫌い去る光景は到底想像できない。

「ずっと一緒にいてね」
「うん!」

 一点の曇りもない、純粋な返事。いつかそれを失ってしまうのが怖いんだ。こんな、なんの長所もない駄目な俺を、いつか見限ってしまうんだろう?
 せっかくの幸せにわざわざ自分で暗い影を落とす、こんな俺を、いつかは捨てていくのだろう?
 それでも、嫌われたって拒否されたって、比奈を好きでいるだろうし、失いたくないと嘆くんだろう。
 ずっと一緒にいてね。
 ずっと一緒にいようね、とは言えない自分に嫌気がさす。いてね、なんて、懇願しているようで、情けない。
 素麺を冷やす水が流れ続けている。俺はようやく抱擁をほどいて、水を止めた。そして、氷と一緒に比奈が用意してくれた皿に盛る。

「ご飯食べようか」
「はあい」

 タマのフードの袋を開けながら、俺はテーブルのほうに向かった比奈を追う。細い背中を俺のTシャツが覆っていて、華奢さを誇張している。
 俺の服を着ている比奈。というのが、とても重要で大切な気がして、少し切なくなった。
 夕暮れの陽が、ゆるやかに部屋を照らす。夏休みもあと少しで終わりだというのに、まだまだ残暑は厳しい。
 ゆらりと揺れたカーテンの向こうは、静かな街並みが佇んでいた。

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