信じるなんて馬鹿だよ
10

 くったりとして目をとろとろさせている比奈に腕枕をしながら、チョコレート色の髪をさらりと撫でた。
 事後の気だるい空気を、比奈の吐息が満たしていく。甘ったるいな、とぼんやりと思いながら、腕にかかる心地よい重さに溺れそうになる。
 窓の外を見ると、夏だというのにうっすら夕闇が迫ってきていた。日が暮れる前に比奈を家に帰さないといけないと思うと、憂鬱になる。帰したくない。

「比奈」
「んう」
「今日、泊まっていかない?」
「お泊り……」

 今にも眠りに入りそうだった比奈に問いかけると、寝ぼけたように俺の言葉を繰り返す。

「……お泊り」
「そろそろ帰らないと、親御さん心配するかな」
「お泊りがいい」
「ほんと?」

 さっきよりはっきりとした言葉でお泊りがいいと言った比奈に、腕を引き抜いて比奈の鞄を取りに行く。鞄から携帯電話を取り出して、比奈に渡す。比奈は素直に、携帯を耳に当てた。

「あ、もしもしお母さん? あんね、今日ね、先輩のおうち泊まっていい? うん、うん、分かったぁ。え? あ、えと、うん、あの……うん」

 電話の向こう側で、おばさんがご機嫌そうに話している音が聞こえる。おそらく彼氏の家に泊まる、ということをからかっているのだろう。そういう事柄にはライトな考えを持っていそうだし。
 電話を切った比奈が、ジーンズに足を通していた俺の背中にぴとりと張り付いてきた。素っ裸だったので、俺の着ていたTシャツを着せてやる。ついでに、その辺に落ちていたパンツを渡してあげると、顔を真っ赤にして慌ててそれを奪い取った。

「お母さん、なんて」
「先輩に迷惑かけないようにねって」
「あはは」

 フランクなお母さんだ。
 棚から新しいシャツを取って着て、キッチンに立つ。冷蔵庫を見ると、二人分の何かが作れそうなものはなかった。しかたないので素麺を沸騰させた鍋に入れる。
 背後からよたよたと足音がして、キッチンに入る直前の廊下で転んだ音がした。

「大丈夫?」
「にゃいじょうぶ……」

 足元にタマが絡み付いてきてにゃあんと一声鳴いた。タマをよけようとして転んだのかな、と思いつつ、茹で上がった素麺を流れる水に浸す。
 隣に立った比奈が、棚から皿を出してくれる。そのまだ少しほてった横顔を見て、ふと不安を伴った疑問がわきあがった。

「比奈ってさ」
「う?」
「俺のどこを好きになったの?」
「えっ」
「顔?」