憎しみと愛情は同じ色
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 お湯をわかしながら、図書室からもらってきた古い雑誌を読んでいると、チャイムが鳴った。

「はい」

 ドアの向こうに声をかけて様子をうかがっていると、静かな咳払いが聞こえた。そして、小さく、でもよく通る声が「開けろ」と呟いた。――あの人だ。
 息を飲んで黙っていると、先ほどより大きな声で同じことを言う。からからに乾いた唇を舐めてドアノブに手をかける。うつむいてドアを開けると、上等な着物の帯が目に入った。

「話がある」
「……どうぞ」

 ドアを開いて彼を招き入れる。仏頂面で下駄を脱ぎ廊下を歩いている姿にため息をつき、その背中を追いかけてキッチンに入る。夕食のラーメン用にわかしていたお湯は、彼へのコーヒー用となった。
 二人分のコーヒーマグを手にして、俺はローテーブルを前に腕を組んで座っている男にマグを手渡した。中身を見て顔をしかめた彼は、口もつけずそれをテーブルに置く。コーヒーは嫌いだったらしい。そんなことも、俺は知らないのだ。

「……話って、なに」

 もう激昂する気も起こらない。なるべく穏便に済ませて帰ってもらいたい。彼と、顔を合わせられない。目が合ったが最後、泣き出してしまいそうだ。

「お前の籍を抜こうと思ってな」
「……」

 それは、俺に突きつけられた最後通牒だった。籍を抜く、だって? 勘当? そんなことをしたら、もう形だけですら家族でいられない。そんなに俺が、用なしどころか邪魔なのか?
 聞きたいことはたくさんあった。でも、どれも声にならずに弾けた。肯定されたらもうどうしようもないと思った。

「……お前のことを、何年も私のエゴで縛り付けていたことは謝る」
「エゴ……?」

 聞き慣れない言葉だ。俺が幼かったからしかたなかっただけではないのか? もう大人だからと切り捨てるのではないのか?

「本当の父親が現れるまでだと、自分に言い聞かせていたんだ」
「だから、あの人は」
「ルカと言ったか。あの男、突然目の前に現れてお前を養子として迎えたいなどと言い出した」
「え」
「本当の父親のもとで暮らすのが一番いいのだということは分かっている。私にできることは、お前と縁を切ることくらいだ」
「どういう……」