憎しみと愛情は同じ色
10

 どんよりとしけった梅雨の晴れ間、昨夜振った雨でびしょびしょになっているだろう屋上には行かず、俺は授業をきちんと受けていた。

「えーソヴィエトというのは、ご存知でしょうけどね、えー、ロシア語で会議を指す言葉で、えーその後の革命でね、えーと、中心的存在となってね」

 えー、が多い世界史の先生は、ずり落ちてくる眼鏡を何度も押し上げながら、時折教卓に開いた教科書を見ながらチョークを走らせる。
 他の教科に比べれば、世界史は嫌いなほうじゃない。得意かと聞かれればそれもまた微妙なのだが。
 時計をぼんやり眺めながら先生の声をBGMにとろとろとした気持ちになってきた頃、チャイムが鳴った。今日はここまで、と声を張り上げ、先生は荷物をまとめて教室を出て行く。次は昼休みだ。比奈に手渡された弁当を鞄から取り出して少し悩む。屋上はだめだ、中庭だって屋根があるところはきっともう満席だろう。どこで弁当を食べようか……。

「先ぱぁい」
「あ、比奈」

 教室を出たところで呼び止められて振り向くと、少し伸びてきたチョコレート色の髪の毛をふたつに結わいている比奈が弁当を持って駆け寄ってくる。

「ご飯一緒しましょ!」
「うん、いいけど……梨乃ちゃんは?」
「男の子に呼ばれてどっか行ったですよ」
「ふうん」

 あの美人な後輩のことだ、きっと好意を寄せている男は少なくないだろう。雰囲気としてはなんとなく、梨乃ちゃんと拓人の間に何かあった――進行形で、あると言ってもいい――のではないだろうかと思っているが、本人たちの口から聞いたことはない。詮索するのも趣味じゃないし、ぶっちゃけどうでもいい気持ちが大きいので放っておくことにする。

「どこで食べよっか」
「んっと……あ、四階の世界史準備室、日当たりいいんですよ」
「なんで知ってるの?」
「猫ちゃんが入っていったからついていったの」
「学校に猫がいたの?」
「はい! 廊下歩いてたですよ」

 猫を追いかけて穴場にたどり着くなんて、アリスみたいだ。もっとも彼女が追いかけたのはうさぎで、たどり着いたのは穴場じゃなく穴だが。

「でも、今日は日当たりとか関係ないよね、曇りだし」
「うぅーん、でも、他よりきっと当たるですよ」
「そっか」
「そです!」
今日の弁当はオムライスだった。適度な塩味のチキンライスが美味しかった。