憎しみと愛情は同じ色
06

 学校へ向かう足がすくみそうだ。今にも立ち止まって引き返しそうな足を叱咤して、一歩一歩ゆっくりと進む。
 怖いという気持ちと、もう誰がどう思ってもいいという気持ちが交錯して頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。泣き出しそうな気持ちをぐっとこらえて、目を強く閉じて開いた。

「先輩! おはよーございます!」
「……おはよ」
「え、先ぱ……」

 振り返ると、目を真ん丸に見開いた比奈がこちらをまじまじと見つめていた。思わず、目を伏せる。
 比奈は俺の近くまで寄ってきて、俺を見つめてにこっと笑った。

「きれいです! お日様の下で見れて、よかった!」
「……そう、かな……」
「とっても似合ってる!」
「うん……」
「先輩、最近ずっと元気なかったから、比奈心配してたんですよ!」
「うん、分かってた。ごめんね」

 父親――元父親と言うべきなのか――に事実上縁を切られたも同然の俺は、ここ二週間ほどずっとそのことを考えていた。後妻、息子、用なし、俺。この単語ばかりが頭に並んだり浮かんだり絡まったりしては、消えていた。
 回数が減った悪夢を、また見るようになった。内容は相変わらず、比奈や拓人の背を追いかけて腕を掴むと、母さんのそれとすりかわり、「許さないから」と、母さんの声と二重になって罵られる、そんな夢だ。あとは、やっぱり真っ暗なところで俺を蔑む声が延々と響く夢。「お前が小百合を殺したんだ」「お前さえいなければ」「お前はもう、用なしだ」「用なし」用なし用なし用なし……。

「先輩?」
「ああ、ごめん、まぶしくて」
「やっぱり、青いと目が痛いのかな? 拓人さんもずっとサングラスかけてるよね?」
「そうかもね」

 手を目の上にかざし、太陽を視界のすみに認める。およそ五年ぶりくらいに肉眼で外に出た。色素の薄い瞳は紫外線に弱いらしく、少しふらつく。いや、ふらつくのを目のせいにしたりして、ほんとうはまた栄養が偏っているんじゃないだろうか、比奈が作ってくれる弁当も、食欲がわかないで残してしまったりしていた。申し訳ないとは思っていたが、それも正直なところ後付の考えで、残したそのときは何の罪悪感も感じていなかった気がする。最悪だ、自分。
 こんなのは当てつけだ。誰に対するか、は分からないが、そう思った。あの人が見ているわけでもないのに青い目をさらして「俺はあなたの子どもではありません」と言っているような気分だ。

「……変だよね」
「え?」
「ううん、何でもない」
「……元気?」
「うん」
「ほんとにぃ?」
「ほんとほんと」

 比奈と手をつないで学校へ向かう途中、同じ制服を着たやつらの何人かが俺を見て逸らしもう一度見た。瞳を見られている、とすぐに分かった。そりゃあ驚くだろう、昨日まで自分たちと同じ色だったはずなのに、急に青く薄くなっているのだから。
 たぶん、しばらくは俺がカラコンを始めたと噂になるのだろう。実際には逆なのだが、事情を知らない他人からすればそれが真実だ。