憎しみと愛情は同じ色
04

 最近、彼が抜け殻のようになっている。
 彼というのは親友の恋人でありあたしの先輩でもある彼だ。ずっとぼんやりしていて、かろうじて学校へは来ているものの、授業もほとんど出ていないらしい。
 比奈やあたしが体調や単位を心配して、弁当のメニューを変えたり、授業を聞かなくともせめて座っているだけでもいいからと助言したり、いろいろしてみたが、彼にとって一番力があるだろう比奈の言葉も、今の彼の耳は拾わないようだ。先輩の心配ばかりして、比奈は最近あまり笑わない。

「いい加減にしてください」
「……」
「尚人先輩、聞いてるんですか?」
「……聞いてるよ……」

 ぼんやりと、何をするでもなく図書室のカウンターに座っていた先輩に話しかけると、ようやく答えが返ってくる。

「比奈を悲しませないでっていつも言ってるでしょ」
「……悲しませてる? 俺が?」
「ぼうっとしてる、って心配してるの、ここ数日ずっと」
「あは、よく見てるなあ」
「笑い事じゃない!」

 ふざけた物言いに思わず噛み付くと、先輩は力なく笑う。へらりとした顔は、いつもどおりのようでいて何かが違うような気がした。とにかく、ぼうっとしている自覚はあったらしい。
 にらみつけると、先輩が困ったように眉を下げて笑みを浮かべた。無言の拒絶だ。

「先輩」
「心配、しなくてもいいよって言っといてよ」
「それは先輩が言ってくださいよ……」
「ああ、うん、そうだね」
「……」

 変だ。
 ぼうっとしていることは前からよくあったことだが、今回のは何かが違う。うつろな表情を浮かべ、ここにいるのにいない、そんな風な。これじゃ、比奈が心配するのもしょうがない。
 今すぐ肩を揺さぶってぶん殴って、こちらの世界に戻してやりたいが、それが出来るのはたぶんあたしではない。
 消えそうな先輩を残し図書室をあとにして、あたしは帰路に着く。
 あたしがとやかく言うことじゃないんだろうけど、比奈の憂い顔を見るのはいやだ。