憎しみと愛情は同じ色
03

「……父さん」
「……」

 比奈を送っていった帰り道、ぽつぽつと歩きながらアパートへたどり着くと、部屋の前に父さんの姿があった。
 家出してから、二度目だ、会うのは。一度目は、時期もちょうどこの頃で、一年ぶりの父さんは何も変わっていなかった。俺用のしかめっ面、上質な着物、俺よりずっと小さいのに大きな姿。何も変わっていない。不機嫌そうに腕を組んでいる。俺はただただこの人が怖い。

「あの男に会ったそうだな」
「あの男……?」
「お前の父親だ」
「……あの人は俺の父親なんかじゃない」

 ぼそっと呟くと意外そうに眉を上げ、父さんはぶっきらぼうに、父親だろうが、と嫌味っぽく言った。力なく首を振り、父さんを押しのけてドアに鍵を差し込む。
 父さんの姿を見たとたん、さっきまで比奈と一緒で浮ついていた気持ちが一瞬にして冷めた。もう、前回のように怒鳴り合うことすら面倒で、とにかく関わりたくなかった。
 拒絶の意をあらわにしてドアを閉めようとする俺に、父さんが言った。

「後妻に、息子が生まれた」
「……」
「呉服屋はあれに継がせる」

 だからお前はもう、用なしだ。
 背筋を冷たい何かが通り抜けた。呉服屋はあれに継がせる、だって? じゃあ、去年俺に戻って来いと怒鳴ったのは、呉服屋を俺に継がせるためだったのか? 俺の他に当てがなかったから? もう当てが出来たから俺は用なしだと?
 いろんな感情がぐるぐると身体中を駆け巡る。最後に残ったのはむなしさだった。じゃあ、本当に、俺の存在価値は失われたわけだ。

「それだけのことを言うために、わざわざ?」
「……まあな」
「そう。よかったね、幸せにどうぞ」
「尚人」
「俺のことは忘れて、何もかも新しく始めればいいと思う。もう、二度と会いに来ないで」
「……」

 ドアを閉める直前に見た父さん――もう、父親ではないのかもしれない、いや、最初から父親なんかじゃなかったのだ――の顔は、どうしてか苦渋に満ちていた。