憎しみと愛情は同じ色
02

「――!」

 久しぶりに悪夢を見た。
 比奈がどこかへ行ってしまう夢だ。手を伸ばしても彼女はどんどん遠くへ行って、ようやく手を掴んだと思えば、振り向いた比奈の顔と母さんの顔が入れ代わった。「許さないから」。

「は……」

 汗びっしょりになったTシャツを脱ぎ、洗濯機に放り込む。時計を見ると、午前五時をさしていて、窓の向こうはうっすらと明るくなっている。もう一度寝なおす気にはなれなくて、キッチンの冷蔵庫から比奈のために作り置きしてあるココアペーストを取り出した。牛乳を温めながら、裸でいた上半身が寒く感じ、風呂場の竿に掛けておいた洗濯物の中から薄いピンク色のTシャツを取って着る。今日はこれに制服のズボンを合わせればいいか、と思い、温まった牛乳をペーストに入れてかき混ぜた。
 ココアは特に好きなわけではない。インスタントコーヒーがあるからそちらを飲んでもよかったのだが、どうしても今はココアが飲みたかった。少しでいいから、比奈の痕跡を追いたかった。俺が普段飲まないココアがこの場所にある、だから比奈がいる。そう思いたかった。
 こんなことを梨乃ちゃん辺りが知ったら、女々しいと言って笑うのだろうな、と思いを馳せる。

「……比奈」

 名前を呼んでも声が返ってくるわけじゃない。それでも、呼びたい。
 線はもうぐしゃぐしゃで、境界も曖昧だ。比奈というぬるま湯にどっぷり浸かってしまっている自分がいる。いつか終わりが来るのに、こんなことじゃまた失うのに。もう誰かを失うのは嫌だ。だから、比奈を必要としてはいけないのに。必要としなければいつか別れ道に立ったときでも平気でいられるのに。

「比奈」

 どうしようもない。