遠いから逃げる臆病者
04

「先輩?」
「……何?」
「気分悪いですか?」
「いや、別に……」
「でも、顔色悪いですよ」

 比奈と梨乃ちゃんが、俺の顔を覗き込んで怪訝そうに声を出す。ひらひらと手を振ってなんでもないと言うと、比奈の箸が俺の口元に伸びてきた。

「比奈特製ミートボールです。食べて元気元気!」
「あー……食欲ない……」
「先輩そんなんだといつか骨と皮だけになって干からびますよ」
「元気ー!」
「あが」

 無理やり、口にミートボールを突っ込まれ、そのままぐいぐいと箸が奥に入ってくる。生命の危険を感じ慌てて距離を取りそれをやり過ごし、口に入れられたミートボールを咀嚼する。うん、やはり美味しい。
 俺が飲み込んだのを確認して、比奈が今度はポテトサラダを差し出す。断るのもなんだし、食欲がないと言っても差し出された量が量だし、と素直に口を開けると、今度は普通に箸が入ってきた。

「……あたし、邪魔?」
「え、なんで?」
「別に邪魔されるほどのことしてないじゃん」
「てゆーか、いづらい」

 げんなりと梨乃ちゃんが呟く。まあ、たしかに、俺もあゆむと旭さんが仲睦まじくランチをしている場所にはいづらい。同じようなものか。
 じゃあ弁当を持っていない俺が立ち去るべきか、と考えていると、屋上のドアの向こうが騒がしくなる。

「あゆむそんな食べれんのー?」
「残ったらあとで食えばいいじゃねぇか」
「わたしお弁当作ってきたのに……」
「あ、尚人だ」

 ドアの向こうから姿を現したのは、あゆむと純太と旭さん。純太はおそらくあえて空気を読まずふたりに付いてきたのだろう。

「ちびちゃん久しぶりー」
「ちびじゃないです!」
「ちびはちびだろ。あー腹減った……ねみぃ」
「資料室でグースカ寝てたくせによっく言うよねー」
「うっせ」

 すっかりちびという呼び名が浸透してしまっているらしく、比奈はぷりぷりと怒っている。しかし、純太や旭さんとだって十五センチ近く身長差があるので、しかたがないとも思う。

「あれ? 桐生くんご飯は?」
「ないよ。食欲ないし」
「お前夏が来る前に死ぬぞ。ホラ」
「うーん……」