君の愛が怖い時がある
13

 とろとろと意識が乱れていく。休み時間の終わりを告げるチャイムが遠くに聞こえる。次の授業はなんだったっけ、日本史?
 頭は起きようとしているのだが、身体がついていかない。純太が立ち上がる気配がする。あゆむは座ったままだ、このままサボるつもりだろうか。

「おい」
「……」
「起きろインポ」
「……ちゃんと勃ちます……」

 あゆむに反抗しつつ、起き上がることはしない。なんだか妙に眠たい。ふっと、顔の上にあゆむの腕が伸びてきて陰になった。なんだろうと思っていると、片手は俺の鼻をつまみもう片方で俺の口を塞いだ。

「……!」
「起きろ馬鹿」
「んー! んーんー!」

 必死であゆむの手をどかし、起き上がって慌しく息を吸う。胸に手を当てて呼吸を整えていると、ぼそりとあゆむが呟いた。

「お前、顎めちゃくちゃ細かったんだけど」
「……大きな、お世話……」
「ちゃんと食ってんのか?」

 ほら、とチーズ蒸しパンを差し出され、いらないと首を振ると眉を寄せる。

「お前、もちっと蓄えとかねーと夏を乗り切れねぇぞ」
「……大丈夫だよ。いたって健康」

 ここのところとみに食が細いのだ。押し付けられて変形したパンをあゆむに返して、フェンス越しにグラウンドを見ると、午後一で体育なのか、比奈と梨乃ちゃんが何か話しながらストレッチをしている。ふと上を見上げこちらに気づいたらしい梨乃ちゃんに手を振ると、彼女が比奈の肩をちょいちょいと叩いてこちらを指差す。

「先ぱあーい! サボってないで、ちゃんと授業受けなきゃメッですよー!」

 手をメガホン代わりに目一杯叫ばれ、その声に寄ってきた体育教師でうちの担任が、俺とあゆむを見てまたかという顔をする。

「お前ら卒業できなくなるぞ!」
「はーい。気をつけます」
「またふられたからって俺たちに当たるんじゃねーよハゲ」
「真中お前あとで覚えとけよォ!」

 あゆむの言葉はどうやら図星らしい、担任が顔を赤くして怒鳴る。また懲りもせず司書の小枝ちゃんにアタックして玉砕したのだろう。ここまで何度もふられてたらもうギャグの領域だ。

「どうする、戻る?」
「めんどくせぇ」

 ごろりと寝転んで、あゆむが目を閉じる。さっき人を無理やり起こしておいて、自分は寝るのか。というか、なぜ俺はさっき起こされなければならなかったのだ。むかついてあゆむの背を軽く蹴って立ち上がり、ポケットから携帯を出しながら出口に向かう。