君の愛が怖い時がある
12

「枯れてんな」
「ね」
「うるさいな……」

 購買で買い込んだパンの袋を開けながら、あゆむが鼻で笑った。続いて純太も、無邪気に同意する。屋上のフェンスに背を預け、あゆむがメロンパンにかぶりつく。
 先日の放課後どこかで比奈たちと会った際、梨乃ちゃんから俺たちがまだらしいと聞かされたらしく、珍しく三時間目の授業に出ていたあゆむに、授業が終わるや否や肩を組まれて拉致されたのだ、途中で違うクラスの純太を拾って。
 梨乃ちゃんの言葉だけではいまいち信憑性がないから、俺本人に聞こうと思ったらしい。そして俺が頷くと、冒頭のお言葉だ。

「別にいいんだよ、セックスがすべてじゃないし」
「お前の口からそんな言葉が聞けるとは思ってなかった」
「ヤリチンがやせ我慢しちゃってるぅ」
「ヤリチンじゃないしやせ我慢でもありません」

 あゆむに笑われるより、純太のストレートな物言いのほうが若干つらい。無垢な笑顔でそんなことを言われたら事実じゃなくてもちょっと傷つく。本人もきっとそれを分かっているのだろうから、わざと笑顔で言うのだろうが。けっこう純太って腹黒いよな。

「ま、相手はあのガキだしな。やる気が出ねぇのも分かる」
「やる気云々じゃなくて……」

 コーヒー牛乳のストローを噛んで言いあぐねると、純太が目をぱちくりさせて口を開いた。

「やる気、出るの?」
「いや、あんまり……」
「なぁんだ、やっぱり」

 出ない、とは言わないが、比奈といるときは欲望より安心が先に出る。ああ、まだここにいてくれている、と。
 ただ、今はまだ抱きしめるだけで済んでいるが、もしも俺の気持ちが大きくなりすぎたとしたら、それだけで安心できるだろうか? それが少し怖い。
 恋、をしたことがないから分からない、この気持ちは愛しいというものなのかそれとも別の黒い何かなのか。皆が感じていることなのか俺だけなのか。
 存在を確かめる手段にセックスがあるならば、俺はそれの前でだらだらと自分を錯覚させているだけなのだろう。ないのなら、いっそそんなものがなければ、思考はもっと簡単であろうに。
 寝転んで、太陽から目を背けて横を向く。未だ純太はわいわいと俺に質問をしていたが、無視していると諦めたのか何も言わなくなった。