君の愛が怖い時がある
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 つくづく余計なことを比奈に教えてくれる、あの子は。
 うろうろと定まらない視線を、比奈の真っ赤な両頬を押さえてこちらに向ける。慌てたように目を伏せた彼女に、聞こえるように、でも内緒話をするように囁く。

「我慢っていうか、比奈が平気になるまで、待ってるんだよ」
「……でも」
「比奈だって、俺と何かしたいとき俺の気が進まなかったら、待つでしょ?」
「うんと、えっと……」
「それを我慢、って言うのかもしれないけど、まあ、そこまで苦じゃないし」
「ほんとに?」
「うん」
「別れない?」
「はあ?」
「梨乃が、そんなの普通別れるって」

 ほんとうに、あの後輩はろくなことを言わないな。もう少し自分の発言が比奈の知識になってるってことを自覚してもらわなくては困る。

「梨乃ちゃんの一般論と俺のこと、どっち信じる?」
「ええーっ……」

 これはさすがに難しいか。いくら恋人であろうと、相手は親友だ。どちらかだけを信じろというのは無理な話かもしれない。

「まあ、俺が普通じゃないって思っててくれていいよ」
「……」

 まだ納得していないような比奈の頭をぐりぐりと撫で、俺はもう一度抱きしめた。わたわたしながらも、落ち着いたころに細い手が背中に回るのを心地いいと感じる。
 当分、これだけでいいかな。急ぐのは性に合わないのかもしれない。身体のつながりなんて空しいものだと知ってしまっているし。身体がつながれば心もつながるのなら、心がつながれば身体もつながるのだろう。どちらが先でもいいじゃないか。