雨の日の魚と猫と天使
01

 最近、悩んでいることがある。

「先輩」
「ん?」
「これ、楽しいですね!」
「……そうだね」

 全然楽しくないけどね。と、声には出さずとも声色で抵抗を試みるも、鈍い比奈ちゃんは気付いてもくれない。
 俺と彼女は今、授業をサボって屋上で昼寝していたのがばれたせいで、放課後返上で校庭裏の草むしり中である。楽しそうに雑草抜きをしている比奈ちゃんと対照的に俺の鉄壁の笑顔はそろそろ限界に達して口角がひくひくと引きつっている。
 なぜふたりで草むしりをさせられてるかって、それは「ふたりで一緒にサボったから」だ。
 いつの間にそんなに仲良くなってるんですか。と、例の美人な後輩は半ば呆れ半ば驚いていたけれど、そんなの俺が聞きたいくらいだ。
 梨乃ちゃんいわく「出会った女と二時間後にはベッドイン」のこの俺――断じてそんなことはしていないつもりだけど――が、屋上でまったりと空と雲について語り、あげく楽しい草むしり?
ヤリチンが聞いて呆れる。……断じてヤリチンなんてゲスなものじゃないつもりだけど。
 別に、この子を手篭めにしたいわけではない。身体の出来で女を差別するつもりはないが、来るもの拒まずと言われる俺にだって、一応好みの体型というものはあって、彼女はそれに一ミリも当てはまらない。抱きたいという欲はない。
 と言うか、本当に来るもの拒まずでいたら身体なんか持ちはしないし、年がら年中女のことで頭がいっぱいなはずもない。
 比奈ちゃんは素直でいい子だし、一緒にいて楽しいと思う。
 ただ、この無防備さが、無性にいらつくのだ。
彼女は、どういう理由があったのかは知らないが、男はみんな狼、という言葉を人生のスローガンにしている気がする。それなのに、俺はなぜかこうして隣で笑うことを許されている。体に触らない、という暗黙のルールのようなものはあるが。

「きゃっ」
「え?」
「こけた」
「気を付けなよ」

 辺りは適度に柔らかな土と草ばかり、こける要素はなかったはずだ。地面に膝をついた比奈ちゃんに、言葉だけで注意を促して、緩んだ軍手をはめ直す。
 どうしてだろう。比奈ちゃんは、世間知らずで可愛くて、本当にいい子だし、そうでないとふたりで授業をサボったって会話も続くわけがない。彼女のことは好きだ、それなのにどうして時々、はらわたを握られるようなひどい不快感が走るのだろう。

「あっ!」