君の愛が怖い時がある
10

 とは言え、比奈の男性恐怖症がどうやったら治るのか、俺には見当もつかないで、我慢すると言ってもその我慢の先に何があるのか。いや、無意識のトラウマに見返りを求めるほうがおかしいのか。
 春の日差しが窓から入り込んできて、電気をつける必要もないくらいに明るく照らす。
 日の当たっている床にタマが寝転んで気持ちよさそうに転寝をしていて、俺と比奈は今日も一人掛けのソファにふたりで座り、ココアとコーヒーを飲んでいた。
 ふわふわと揺れるチョコレート色の髪の毛から覗く生白いうなじが、日の光に反射していつもより透明感を増している。ごまかすように、サイドテーブルにカップを置いて、雑誌を手に取ってその場しのぎに読みはじめる。ファッション雑誌だが、俺としては金は使うより貯めるほうが楽しいため、あまり参考にはならない。服は安くいいものが手に入ればブランドなんかどうでもいいのだ。
 ちょうどいい位置にある比奈の頭に雑誌の背を乗せてぱらぱらとページをめくっていると、俺の足の間に座っていた比奈が軽く身じろぎした。雑誌を持ち上げて比奈を見ると、振り返って頭を押さえている。

「あ、ごめん」
「比奈の頭は物置じゃないですー」
「ちょうどいい位置にあったからつい」
「比奈にも見せて」

 ぐいっと、比奈が俺の手を掴んで雑誌を引き戻す。俺と比奈の距離がぐんと近くなって、シャンプーのいい香りのする頭が俺の胸にとんとぶつかった。比奈のほうからこんなに接近することは珍しくて、思わず俺の心臓もとんと音を立てた。
 雑誌を斜め読みしている比奈の、制服からむき出しになっている太ももをするりと、何の気なしに撫でると、びくりと比奈の身体が震えた。細い足は、しっとりと肌に馴染む感覚はなく、さらりとしている。少し、気持ちいい。
 そのままさらさらと撫でていると、弾みで右手がスカートの中に入った。硬直していた比奈が両手で俺の手首を掴み、我に返る。

「……あ」
「う」
「ごめん」
「えと、えーと」
「ごめんね」

 困ったように伏せられた睫毛の根元に口付けて、比奈が持っていたココアの入ったカップをサイドテーブルに置いて抱きすくめる。身体は硬直したままだ。

「そんな慌てなくていいよ。何もしないから。ほら、力抜いて」
「えと」

 ぱちぱちとまばたきをして、俺の顔を赤い頬で見つめ、顔を両手で覆っていやいやと首を振る。

「何もしないって」
「そうじゃなくて……」
「ん?」

 抱きしめる力を緩めると、そわそわと視線をさまよわせて、俺の顔は見ずに、ぼそっと呟く。

「……る?」
「え?」
「……我慢、してる……?」
「我慢?」
「梨乃が、……男の子は皆し、したいって、先輩は、我慢してるって……」