君の愛が怖い時がある
09

 さっきまでの話の流れからしてろくなことを言いそうになかった比奈に、内心ほっと息をつき、ポテトの続きに意識を戻す。はぐはぐとナゲットを食べながら、まだ何か考えているような顔をしている比奈の視線は、未だ隣の席のカップルに向いている。その視線にうんざりしたのか、真中先輩がぎろりと比奈をにらんだ。

「なんか用かちび」
「むっ、ちびじゃないですよー」
「どっからどう見てもちびだろうが」

 不毛なやり取りののち、不機嫌な真中先輩の圧力に屈した比奈が、ぼそりと呟く。

「先輩よりちっちゃいくせに……」
「見たことねぇくせに言い切るな。俺のがでかい」
「あゆむ、たぶんそういう意味じゃないよ……」
「ああ?」

 どうしてこんな流れになっているのだろう。
 まるでわけが分からないといったふうに眉を寄せ首をかしげている比奈に、真中先輩が追い討ちをかける。

「アイツ栄養足りてねーから勃つかどうかすら怪しい」
「たつ? 何が?」
「何って、チ」
「あゆむ!」

 うまい具合に彼女さんが遮ってくれたが、比奈の耳には届いてしまったようだ。さっと顔色を変え、テーブルに倒れ込んだ。ごつっと音が響いて、そのままふごふごと額をこすりつけている。

「んだコイツ」
「あゆむがあんなこと言うから、ショック受けちゃったんだよ」
「どうせ飽きるほど見てんだろーがよ」
「……それは」

 いや、彼女さん、もっと強く否定してくれ。ちらりと視線が交わり、あたしはとりあえず全力で首を横に振ってみた。すると、驚いたように彼女さんの目が見開かれる。

「まだなの?」
「え、あ、はあ、まあ」
「桐生くんが?」
「え」

 え、と、らしくない呆然とした声とともに、真中先輩の手から空になった飲み物のカップが落ちる。そのまま目を眇めて真偽を問うように見てくるので、まだみたいですよと言う。正直、真中先輩は怖いので、あまり目を合わせたくない。

「あの桐生くんが……」

 友達の彼女にまで、あの、とか言わせる尚人先輩ってすごいんだな……。

「アイツ男として終わってんな」
「ちっ違うよ、比奈ちゃんのために我慢してるんだよ、きっと!」
「どっちでもいいよ、やってねぇことに変わりねーんだし」
「それは、たしかに……」

 なんだかうまいこと真中先輩に言いくるめられている気がするのだが、彼女さん、自分の意思というものがないのだろうか。