君の愛が怖い時がある
06
比奈と、大きめの一人掛けソファに座って借りてきたDVDを見る。上映中好評を博した、CGと実写の入り混じった恋愛コメディ映画だ。腰掛けた俺の、開いた足の間にちょこんと座って、比奈がぼうっとポップコーンを片手につまんで食べる手前で止めて、内容に見入っている。
ふたつの映像の交わり方がうまくて、ストーリーはありふれた童話のようなものだが、その単純さがかえって功を奏したのか惹かれるものがある。
暗くした室内で恋愛の映画を見るという、これ以上いいシチュエーションなんて漫画にもないだろうというくらいいい雰囲気なのだが、いかんせん手が出ない。理由としては、先日お兄さんが告白した内容がまず挙げられる。
「あわわー!」
小さな声で、比奈が映画に向けて奇声を発する。場面はちょうど魔女との戦闘シーンだ。主人公の男が建物から落とされそうになっている。
「わ、わわ、ああああ」
こんなちゃちなシーンにここまでハラハラしてくれたら、制作サイドとしても本望だろう。ぎゅっと後ろにいる俺の手を握り、音が鳴るたびにびくびくと震える。
「……はあ」
ようやく、物語が終幕を迎える。比奈がほっと力を抜き、思い出したように指に挟んでいたポップコーンを食べる。画面がスタッフロールを映しはじめ、俺は手にリモコンを持って部屋の電気をつけた。
「おもしろかった?」
聞くまでもないことを、その場しのぎに尋ねると、振り返って満面の笑みで頷いた。それが可愛くて、振り向いた際にだいぶ近づいた唇を吸うようにキスをすると、ぼっと頬が火を噴きうつむく。俺は比奈を軽く持ち上げて、足を組んでその上に下ろし、俺の腰の脇に膝をつくかたちになった比奈の、制服から延びる細い首筋にも唇を落とす。びくりと震えて俺の肩を小さい手のひらが押し返した。
「なっ、なな何して……」
「……何もしてないよ」
「うそだぁ、今」
「白かったから、触っただけ」
ふうん、といまいち納得していない様子で、それでも首をかしげつつ俺の膝から飛び降りて、おそらくココアを淹れにキッチンへと少し早足で向かった。
キスの先にあるものが何かも知らないくせに、比奈は俺がそれらしい仕草を見せると敏感に反応してそれを拒否する。大した防衛本能だ。
ロフトから飛び降りてきたタマを抱いて、俺もキッチンへ向かう。
窓から見える景色は桜が散りかけていて、少し斜陽がかかっている。短めのティータイムを終わらせたら比奈をマンションまで送り届けないと、お兄さん並びに幼馴染たちになんて言われることやら。
ため息をついて窓から目を逸らす。
比奈のトラウマと俺の欲望、どちらを優先するべきかと言ったら当然前者だ。とか、綺麗事を並べてみるけれど。
結局のところ本気で欲しがって拒否されるのが怖いだけなんだ。
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