君の愛が怖い時がある
04

 何も望まない。望めば望んだほど、失うものは多い。期待したらした分だけ、反動は大きい。幼いころ何度だって望んで欲しがって裏切られる、そんなことを繰り返してきた。
 だから俺はもう何もいらない、望まない。愛されようなんておこがましいことを思ってはいけない。愛されているなんて錯覚してはいけない。暗い暗い罪の道を一生通って歩かなくてはならないことを知っているから。中途半端はつらいだけだ。
 ふと比奈の横顔が頭に浮かんだ。
 大丈夫。言い聞かせているから大丈夫なんだ、いつか彼女が俺のもとを離れていっても、覚悟はしているから、大丈夫なんだ。
 水垢のついたシンクを見下ろしながら、背後で立ちすくんでいるだろう拓人に聞こえる程度の声で呟く。

「だから、ルカには会わない……会えない」
「……」
「もう、これ以上誰かの人生を狂わせるのはごめんだ」

 本当の父親がなんだ、血のつながりがなんだ。きっと、疫病神の俺に愛想を尽かすに決まっている。好きな女が産んだ自分の子どもなのに、うまく愛せないだろう。俺がその好きな女を殺したから。

「……ルカに、会ってやってくれないか」
「だから嫌だって、」
「お前のせいで人生が狂うなんて、ありえない」
「そんなの、分からないだろ」
「分からないなら、会ってやれ。頼む」
「……」

 後ろから手が伸びてきて、俺の頭をゆるりと撫でた。くしゃくしゃと骨太な指に絡まる俺の細い髪の毛は、暗く本来の色を隠している。