君の愛が怖い時がある
02
今年も同じクラス、もう三年間顔馴染みのあゆむと健康診断の要所要所を回る。体育館で身長計に乗ると、去年より三センチ伸びていた。いったいいつまで成長期なんだ、この身体は。
そう思いながら、増えていない体重にがっくりと肩を落としあゆむが体重計から降りてくるのを待っていると、体育館のステージ――身長計が置いてある辺り――から、小さな物体が疾走してきた。
「先ぱーい!」
「おはよ」
「おはよございます!」
「テンション高いね」
「勝ちました!」
「誰に?」
「じゃーん!」
べしっと胸に容赦なく診断票がつきつけられてよろける。見れば、身長の欄に百四十五・三センチと書いてある。
小さい小さいと日頃思っていたが、こんなに小さかったとは。
「身長がどうかしたの?」
「去年から三ミリも伸びました! 先輩に三ミリ近づきました!」
「……おめでとう」
目をキラキラと輝かせ感極まって泣きそうになっている比奈に、俺の身長の伸び率は教えないほうがいいかな、と思う。
しかしそこはさすが空気の読めない比奈というかなんというか。
「先輩はどれくらい伸びたですか?」
「あーえーと…………三センチ」
「え?」
ぼそっと呟くと、比奈の顔からさっと喜びの色が消える。分かりやすい子だ。嘘でもつけばよかったと思ってももう遅い。
「いや、なんていうか三センチ伸びて、百八十一・二cmに……」
「……うっ裏切り者おおお!」
「あ、比奈……」
ちきしょー覚えてやがれです! と捨て台詞を吐き、比奈が座高計のほうへむたむたと走り去っていく。足が遅いせいか、なかなか背中は遠ざからない。
いつのまにか体重測定を終えたあゆむが、背後でなんだアレと呟いた。
「いや、三ミリ伸びたって」
「たった三ミリであそこまで大騒ぎできる神経が分からねぇ」
「比奈の夢は二メートルまで成長することだからさ……」
「あいつガンダムになりてぇのか?」
「いやー……」
あながち間違ってないが、ガンダムはもっとでかい。
「なんか、可愛いよね、思考が」
「……お前とうとうイカれたか」
「失礼な」
ここ、と頭に人差し指を当ててあゆむがため息をつく。今年の身長測定で、俺のほうがあゆむより高くなったのに、見下されているような気持ちがするのは気のせいじゃない。まず身体のつくりや筋肉のつき方が違う。それほど気を使ってもいなさそうなのにあの筋肉、うらやましい。俺なんか筋トレ一週間でギブアップしてしまったというのに。
自分の長い指が何の問題もなく一回りするひ弱な腕が憎い。骨と皮と血管しかなさそうな不健康な腕が。体重も変わらないどころか実のところ少し落ちたのだ。
「お前、だんだん細くなってく気がすんだけど、気のせい?」
あゆむが地雷を躊躇なくど真ん中から踏む。気のせいだとあゆむに言い含めるように、自分に暗示をかけるように呟く。
そうだ、気のせいだ。今日はたまたま寝坊して朝食を食べなかったからその分減っているだけで(いつも朝食なんて水一杯で済ましているが)そういえば昨日の夜も食欲がなくてチョコプリンしか食べていないから減っただけで、明日か明後日に量れば増えてはいなくとも減ってはいなかっただろう。今日が健康診断であることが不満だ。
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