君の愛が怖い時がある
01

「……」

 比奈が、手の中の紙をじっと見つめる。そして穴が開くほどそれを凝視して、片手で口元を押さえて涙目になっている。

「りっ、梨乃……!」
「どうしたの」
「勝ったよ! 比奈勝ったよ!」
「誰に?」

 誰に、と聞いたのに、比奈は広い体育館をぴゃっと横切ってどこかへ行ってしまった。なんだったんだ……あたしは、さっきまで比奈が乗っていた身長計に乗る。そして、自分の健康診断書に書かれた身長を見て、去年から一センチ伸びたな、と思う。

「……もしかして」

 さっきどこかへ飛んでいった友人は、去年の自分に勝ったと言いたかったのではないだろうか。つまり、身長が伸びたと。
 比奈がどこかへ行ってしまったので、あたしはひとりで体重計に乗り、座高計に乗り、最後にレントゲン検査を受けた。
 クラスに帰ると、ちらほらとあたしと同じように検査を終えた人間がいたが、今年も同じクラスになったあのちびっこの姿は見当たらなかった。いったいどこまで行ったのやら。
 全校健康診断が午前中にあり、そろそろ体操着から制服に着替えて昼休みを迎える時間だ。
 比奈はあのあと残った診断を全部終えたのだろうか。いっこうに戻らない彼女の携帯に電話をかけると、前の席から重たいバイブ音が鳴り響いた。貴重品は持っていくように、担任から話があったはずだが。
 持ち主に貴重品の判断を下されなかった哀れなパールピンクの携帯が鳴り続けるのを、あたしはぼんやりと眺めていた。