全て悪い夢だったなら
07
結局、肩幅と所持金の関係でそのカーディガンを買うことはなかった。ううん、せっかくいい色だったのに、少しもったいない。
お兄さんによりバイトを禁止されている比奈は、お兄さんからもらったお小遣いで裾のフリルが可愛いピンク色の花柄のワンピースを買った。比奈の服は、フリル、レース、ピンク、花柄……そんなものばかりだ。イメージどおりと言えばイメージどおり。
部屋だってそうとう少女趣味であるが、比奈がそんなものを好むのはどうもお兄さんの影響なんじゃないかと最近思う。あのお兄さんは比奈の教育に命をかけているような節がある。
ある意味光源氏だな、と思いつつ、肌寒い帰り道を比奈と手をつなぎながら歩いている。もう春なんだけど、やっぱりまだまだ寒い。
「送ってくれてありがとございます! それじゃ!」
「あ、待って比奈」
「ん?」
すっかりご機嫌になった比奈は、マンションのエントランスに着くと俺に手を振り中に入ろうとする。それを慌てて呼び止めて手でちょいちょいと手招きすると、不思議そうに寄ってくる。
その腕をくいっと引いて、比奈を俺の腕の中に巻き込んだ。ふごふごと照れたようにおとなしく納まっているのが可愛くて、つい笑みがこぼれる。
「はい、誕生日プレゼント」
比奈が顔を真っ赤にして慌てているうちに、首にチェーンを引っかけて留め具をはめる。
ひんやりとしたその金属の感触に、比奈が首元に手をやる。
「何? なあに?」
「ネックレス。俺とお揃い」
もうひとつを取り出し、俺は自分の首にそれを付けた。お揃いの指輪がチェーンについて揺れる。比奈の首には細い指輪、俺の首には太い指輪。
「お揃い!」
「うん」
「可愛い!」
おおはしゃぎする比奈に、やっぱりお揃いにしてよかったと思う。ちょっと重い気もしたが、指輪をネックレスに通す程度ならいいだろうとこれに決めた。本当はこの指輪は指にはめることもできるのだが、いきなりそれでは自分としてもハードルが高すぎて、諦めた。
お揃いという言葉が嬉しいのかにこにこと俺の腕の中で笑う比奈のあごをつまんで上げて、触れる程度のキスをすると、顔を真っ赤にして俺のカーディガンをきゅっと握った。そのまま二、三度軽いキスをして最後に唇を舌で舐めて解放すると、額をぐりぐりと俺の薄い胸に押し付けて、恥ずかしいを身体で表現する。
うう、可愛い。
「じゃ、また明日ね」
「う、はい」
「ばいばい」
「さよー、なら」
「おいこら」