全て悪い夢だったなら
03

「……」
「これなんかどうだ?」
「派手すぎない?」
「赤は目立つか?」

 というわけで、お兄さんと旅行に行ったであろう比奈の誕生日プレゼントを選びに、街まで拓人と出向いたわけだが、なかなかいいものが見つからない。
 最初はアクセサリにしようと思っていたのだが、いざ店に行くとあまりの品数の多さに面食らう。それに、拓人が横から「いつでも身につけていられるように、シンプルなものがいいんじゃないか」とか「ヒナは服装が可愛らしいからあまり飾り立てすぎるのもどうか」とか口を出すので、あまりにキラキラしたものは排除していってしまって、ますます選ぶのが難しい。学校でもどこでもつけていられるように、なんて恥ずかしいことを考えている自分がいやだ。

「なあ、別にアクセサリにこだわらなくても、小物なんかでいいんじゃないのか?」
「たとえば」
「そうだな……コーヒーマグとかポーチとか……」
「うーん……」

 よく考えてみれば、女の子にものを贈ったことなどない。だからそういうことにかけては百戦錬磨っぽい拓人を連れてきたのだが、拓人のアドバイスでプレゼントを決めるのも癪なので、俺はアクセサリにこだわることにした。

「俺は……花でも買っておくかな」
「拓人らしいね」
「花が好きだからな、贈る相手のことを考えながら花屋を見るのが楽しいんだ」
「ああ」

 お前が決めている間に花屋を見ると言ってアクセサリショップをあとにした拓人に軽く手を振り、俺は物色を再開する。
 ……やっぱりピンクだろうか、いやパールも捨てがたい……。

「何かお探しですか?」
「あ、まあ、彼女の誕生日プレゼントを……」

 若干頬を染めた店員が尋ねてくるので、男の拓人よりは女性のアドバイスがいいと思い、素直に話すことにする。

「どんな方ですか?」
「小さくて、ぽやぽやしてて、可愛い感じ。たぶんピンクが好き」
「そうですね、それでしたらこちらのネックレスなんか、おすすめですよ。あと、髪飾りなんかもいいんじゃないですか?」

 ヘアピンやカチューシャを手で示され、比奈のやわらかくて細い髪の毛を思い浮かべる。カチューシャが似合いそうだな、ショートヘアだし、あ、でも前にこれから伸ばすと言っていたっけ。でもカチューシャはロングになっても……。と言うかヘアアクセのお値段が、俺が設定していた予算よりもだいぶ下回るから、いくつか買ってもよさそうだ。

「あと、こちらなんかはペアのネックレスなんですが、けっこう人気でカップルで買っていかれる方も多いですよ」
「ペア、か……」

 ペアというのは思いつかなかったが、お互い誕生日が近いし悪い手ではない。でもなんだか重いような気も、少しする。
 プレゼントひとつ選ぶのがこんなに大変だったなんて……。